入れ歯を調整する永田聡院長=4月、南大隅町のながた歯科医院
鹿児島県内で歯科診療所の偏在が進んでいる。2023年の厚生労働省調査などによると、全体の半数が鹿児島市に集中する一方、大和村など3自治体に診療所がない。半径4キロ以内に診療所がない無歯科医地区は35カ所に上る。関係者からは「将来、診療を受けられない地域が増える恐れがある」と懸念の声が上がっている。
「歯茎に当たらないですか」。4月下旬、南大隅町根占の「ながた歯科医院」で、永田聡院長(44)が患者に声をかけながら、入れ歯を調整していた。
町内に二つある歯科医院の一つ。永田さんの父が約50年前に開業し、10年前に引き継いだ。月1回通院する同町の向吉保夫さん(83)は「近いので助かっている。ここがなくなると、隣の錦江町に行かなければならない」と語る。
県内では約10年前から歯科医院の減少傾向が続いている。歯科医の高齢化や後継者不足が背景にあり、23年は773カ所と前年比で22減った。南大隅町や東串良町では過去20年間、新規開業がない。
永田院長は「近くで閉院したときに全ての患者を引き受けるのは難しい。必要な治療を受けられない人たちが出てくるのでは」と懸念する。地域ではバスの減便が続き、通院しにくい人も増えているという。「地域の人がすぐに足を運べるよう、続けられるだけ続けたい」と話す。
歯科医院は「コンビニよりも多い」と過剰が指摘されてきた。国は歯科医の数を抑制するため、1980年代後半から歯学部定員を削減する目標を立て、国家試験の合格基準を引き上げた。結果、若手が減少している。
県歯科医師会会員の平均年齢は63歳。同会が23年に実施したアンケートでは6割が「後継者がいない」と回答した。70代で辞める医師が多く、約10年後に閉院が増えると予測されている。伊地知博史会長(66)は「開業には最低10年かかる。国が抑制をやめないと、減少に対応できなくなる」と危機感を募らせる。
同会は6月、事業承継のプロジェクトチームを立ち上げ、閉院を予定する歯科医の後継者探しに乗り出す。伊地知会長は「新規開業を考える医師には、設備費を抑えられるメリットがある。地域医療を維持するためサポートしていきたい」と話す。
歯科医院の偏在に詳しい神奈川歯科大学の櫻井孝学長は「訪問診療の重要性が高まる中、医院が少ないと手が回らなくなる」と指摘する。人口減少が進む地域では、経営が成り立たないケースもあるとし、「若い世代が安心して開業できるよう、設備費の補助や開業する場所の確保など国や自治体の支援が必要だ」と話した。