クルーズ船下船時の手荷物検査の様子を再現する税関職員=5月30日、鹿児島市のマリンポートかごしま
鹿児島へのインバウンド(訪日客)が急増する中、長崎税関鹿児島税関支署は2024年、不正薬物を持ち込んだクルーズ客2人を摘発した。同年、全国の税関が大麻と麻薬を摘発した件数は過去最多で、水際対策の重要性が増している。限られた人員と時間で、多い時には数千人の手荷物を検査する必要があり、厳格な取り締まりと迅速な通関の両立に腐心している。
近年、新型コロナウイルスの5類移行や円安の影響で、鹿児島の訪日客も急回復した。県によると、24年に海外を経由するクルーズ船が鹿児島港に寄港した回数は102回で、過去10年間で最多となった。
そんな中、鹿児島税関支署は同4月と6月、薬物事案を2件摘発した。同支署と鹿児島県警によると、いずれも米国人で、コカイン、大麻リキッドを持っていた。コカインの事例では、手荷物から白い粉末を見つけた税関職員が県警に情報共有。当日中に違法薬物と分かり、客は緊急逮捕された。
大麻リキッドのケースでは、検査で吸引器具のような物を見つけたが、大麻と判明したのは数日後だった。薬物の種類や発見時の状態によって、鑑定の時間が異なり、結果がすぐに出るとは限らないからだ。大麻と分かると、横浜港に着岸した船から下りてきた客を県警捜査員が逮捕した。
財務省によると、24年に全国の税関が大麻、麻薬を摘発した件数は390件、322件で、いずれも過去最多。密輸の手口も巧妙化しており、山口昌彦支署長は「職員の検査技法向上と検査機器の最大限活用に努める。周囲の客の様子や旅行先で不審な点があれば、速やかに情報提供してほしい」と訴えている。
徹底した取り締まりに努める中で、悩ましいのが検査のスピードだ。
同支署によると、鹿児島市のマリンポートかごしまでは、最大で約5000人がターミナルを通過する。十数人の税関職員が検査に当たり、必要に応じて不正薬物や爆発物などを分析装置で探知する。全員の検査を終えるまでに数時間かかる場合もある。迅速に終えるため、職員は各国の薬物事情を情報収集し、客の出身国や、わずかなしぐさなどから違和感を見逃さない。
クルーズ船は、早朝に入港し、その日のうちに出港する便が大多数で、検査が長引けば客の観光スケジュールに支障が出る。同支署の鈴木栄二統括監視官は「大多数は善良な客。可能な限り検査を早く終える必要があるが、決して手は抜けない。両立が課題だ」と打ち明けた。