遺族が大切に保管している男性の携帯電話=8日、福岡県
鹿児島県内で飲酒運転が絶えない。2024年の事故死者数は8人に上り、1人だった前年より大幅に増えた。この二十数年で厳罰化が進んだが、撲滅にはほど遠い。事故に巻き込まれ最愛の家族を失った遺族は「飲酒運転は無差別殺人と同じ。被害者家族も加害者も苦しみ続ける」と語る。
21年2月9日午前5時49分。鹿児島市大竜町の国道10号交差点で、鹿児島大学獣医学部1年の男性=当時(20)=が車にはねられ死亡した。馬術部の馬を世話するため、自転車で向かっていた時だった。
車を運転していた男=当時(25)=は酒気を帯び、救護措置もとらなかった。自動車運転処罰法違反(危険運転致死)などの罪で懲役9年、その後、道交法違反(ひき逃げ)の罪でも懲役10月の判決を受けた。
判決などによると、男は姶良市で酒を飲み、信号無視を繰り返しながら鹿児島市まで運転した。同市でも飲酒し、帰宅する際に事故を起こした。時速約93キロではねた上、約270メートル先の車に追突。その後、約30分間車内にとどまり続けた。
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「理性を失い無謀な運転を繰り返した。息子は殺された」。男性の父親(54)=福岡県=は、男に対して湧いてくる「どろどろした醜い気持ち」に今も葛藤している。
刑事裁判では、男から事故の状況について納得できる説明はなかった。衝突後何があったのか。息子の最期の姿を知りたい。その一心で、23年9月に民事裁判を福岡地裁に起こした。
25年2月、刑務所であった証人尋問で、男と話す機会を初めて得た。そこで、新たな事実を聞かされた。
刑事裁判では「(男性を)車で引きずった」と述べていた男は、「車のボンネットの上に乗り上げ道路に落ちた。裁判ではうそをついた」と告白した。
これを聞いた父親は問いただした。「自然に落ちたのか、振り落としたのか。つじつまが合わないことで苦しんでいる。本当のことを話してほしい」
母親(52)は画面がぼろぼろになった男性の携帯電話を手に、「息子はこれと同じ状態になった」と男に見せた。
男は「申し訳ないと思っている」とだけ答えた。
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事故から4年。父親は「怖くて逃げたと正直に話してほしかった。結婚したり子どもができたり、何十年も何百年も続いていく未来を断ち切られた」と胸の内を語る。
飲酒運転がなくならない実態に、撲滅は難しいと感じている。「啓発活動は被害者任せ。遺族が働きかけなければ社会も動かない状況が歯がゆい」と述べる。
息子は明日帰ってくるんやなかろうか。そう思えていたのが近頃は、もう帰ってこんのやな-。と感じるようになった。そんな自分に気付くと「寂しい気持ちがこみ上げる」という。
事故があった交差点には絶えず花が供えられている。6月5日、近くの女性が訪れ、手を合わせた。男性家族と面識はないが、時折立ち寄るという。「この痛ましい事故を忘れてはいけない」。涙ながらにそう訴えた。
◇「飲酒あり」死亡事故率12倍に
鹿児島県警によると、県内では2024年、飲酒運転事故で8人が死亡した。内訳は、飲酒運転者本人4人、本人以外4人。県警のデータに基づき分析したところ、24年の県内の死亡事故率(死亡事故件数÷交通事故件数)は「飲酒なし」が1.47%なのに対し、「飲酒あり」は17.78%となっており、約12倍にのぼる。
24年の飲酒運転事故件数は45件(前年比10件増)。20~24年の平均は39.8件だった。同期間における発生時間帯をみると、最多は6~7時台(累計36件)、次いで8~9時台(同20件)だった。24年の曜日別件数は日曜が多く、月曜、金曜と続いた。
県警交通指導課によると、24年の飲酒運転摘発件数は355件。「飲酒してから時間がたったので大丈夫だと思った」「事故をするとは思わなかった」と話す運転手が目立つという。
県警交通部の後迫克章管理官は「飲酒運転は誰かの大切な将来を奪う。他人事ではなく、飲酒運転をしない、させないと、自分事として捉えて」と啓発する。