H2Aロケット最終50号機 まもなく打ち上げ――驚異の成功率97.96%、それは6号機の失敗「指令破壊」から始まった

2025/06/28 21:01
情報収集衛星を搭載し上昇するH2Aロケット49号機=2024年9月26日、南種子町の種子島宇宙センター
情報収集衛星を搭載し上昇するH2Aロケット49号機=2024年9月26日、南種子町の種子島宇宙センター
 H2Aロケットは最終号機となる50号機が29日未明、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センターから打ち上げられる。多様な人工衛星や探査機を運び、日本の宇宙開発を24年間にわたり支えてきた。打ち上げは地元の経済や雇用への波及効果も大きい。新型ロケット「H3」に移行する宇宙開発の可能性を探った。(連載「H2Aの軌跡」㊤より)

 「H2Aは実績を重ねてロケット開発の歴史を刻んだ」。H2Aのシステム設計に携わった経歴を持つ宇宙航空研究開発機構(JAXA)の岡田匡史理事(63)は5月、鹿児島市であった会合で強調した。

 H2Aは2001年の1号機打ち上げ以降、日本の主力ロケットとして最も長く運用されてきた。純国産「H2」の技術をベースに、当時の宇宙開発事業団(現JAXA)が開発した2段式の液体燃料ロケットだ。衛星ビジネスの国際市場参入を目指し、打ち上げ費用をH2の半分の約100億円に削減。部品の数を減らし、民生品や海外製品の調達も許容して実現した。

 種子島宇宙センターの砂坂義則所長(58)は「H2で培ったモノづくりの丁寧さを生かしつつ、低コストで量産化を図ることを追求した」と説明。打ち上げのたびに検証を重ね、エンジンの制御技術など改善を加えたことが長期の運用につながったと振り返る。

 日々の生活に不可欠な気象衛星をはじめ、安全保障のための情報収集衛星や小惑星探査機「はやぶさ2」、月面探査機「SLIM」を宇宙に送り出し、海外の衛星も5回打ち上げた。

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 1号機から49号機までの成功率は、世界トップレベルの97.96%を誇り、高い信頼性を得た。唯一失敗したのは04年の6号機。補助ロケット2本のうち1本が切り離されず、高度422キロで指令破壊された。

 原因は燃焼ガスの熱でノズルに穴が開き、漏れたガスで分離信号を伝える配線が切れたためだった。原因究明と再発防止に向け、JAXAは補助ロケットだけでなく機体のシステム全体を徹底的に見直した。7号機打ち上げまでに約1年3カ月を要した。

 射場設備の保守管理や打ち上げ支援に当たるコスモテック(東京)は、この影響で人員を一時削減した。岩坪順・南日本事業部長(66)は大きな転換期だったとして、「失敗から得られた教訓とその後の経験の蓄積が、信頼性の高いロケットにつながった」とみる。

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 打ち上げ業務は、07年の13号機から三菱重工業に移管された。コスト低減や事業の効率化を進め、国際市場へアピールしてきた。

 ただ、その市場は米国で再利用型のロケットが生まれ、技術革新や価格破壊が進む。24年度に本格運用が始まったH3はH2Aの半分の約50億円を目標とし、厳しい戦いに挑戦。27年度後半には年7機以上の打ち上げを目指す。

 高頻度化に向け、種子島宇宙センターでは衛星組み立て棟や燃料貯蔵タンクの増設が予定される。砂坂所長は「打ち上げ回数が増えれば、観光客への対応など地元の負担は重くなる。軽減しつつ地域とともに発展を目指したい」と語った。

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