最後の打ち上げが近づくH2Aロケットへの感謝を示すのぼり=19日、南種子町
H2Aロケットは最終号機となる50号機が29日未明、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センターから打ち上げられる。多様な人工衛星や探査機を運び、日本の宇宙開発を24年間にわたり支えてきた。打ち上げは地元の経済や雇用への波及効果も大きい。新型ロケット「H3」に移行する宇宙開発の可能性を探った。(連載「H2Aの軌跡」㊦より)
ロケット打ち上げ1回で約2400万円-。種子島へ見学に訪れる観光客や出張者の消費額の試算だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2023年にまとめた。
種子島宇宙センターがあることによる経済波及効果は、島内1市2町で117億3500万円と見込んだ。うち地元の南種子町は70億5500万円で6割に上る。内訳は射場施設の改修工事や保守点検が約59億円、旅行者らの観光や宿泊の消費で約10億円、ロケット関連施設の維持管理費が9000万円だった。
南種子町は24年9月、宇宙関連事業をまちづくりの基本に置く決意として「SPACE TOWN(宇宙のまち)」宣言をした。H2Aロケットの最後となる50号機の打ち上げに向け、感謝と成功を祈願するのぼりを町内の道路沿いに掲げる。同町の立石勝行企画課長(49)は「宇宙センターと1次産業で成り立っている町」と言い切る。
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県内外の子どもたちに宇宙やロケットの学習体験をしてもらう南種子町の「宇宙留学」は、2025年度で30年目を迎えた。全国から受け入れた小中学生は計1078人に上り、この数年は毎年50人前後が参加する。
特に家族そろって転入するケースが増加。兵庫県明石市から小学3年の長男孝一さんと4月に移住した坂井君子さん(53)は「宇宙に興味があり、自然の中でも過ごせる」と決意した。
町教育委員会によると、これまでに38世帯119人が1年の留学期間終了後もとどまった。町の人口は5000人で、この10年で約700人減った一方、10代は400人前後で推移する。
「八つの小中学校が子どもたちを受け入れることで、町内全体の活性化につながっている」と菊永俊郎教育長(67)。町は受け入れ態勢を充実させようと、24年度に移住定住者向けのアパートを整備した。
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宇宙関連事業は雇用の恩恵も大きい。宇宙センターで射場の保守管理や打ち上げ支援に当たるコスモテック(東京)南日本事業部は社員約240人のうち、約7割が種子島出身だ。
H2Aを引き継ぐH3は低コスト化を追求し、打ち上げ人員を現在の約120人から4分の1程度に削減する。町にとっては逆風だが、年7回以上の打ち上げを目指すJAXAの取り組みはチャンスになる。
町商工会の山中強会長(62)は宿泊施設の経営者の高齢化を心配しつつ、高頻度の打ち上げは1年を通した誘客につながると期待する。「ロケットがないと過疎化が進む。子どもや孫たちの代まで宇宙センターと一緒に発展していきたい」と語った。