悪石島やすら浜港付近。地震の影響か、山肌があらわになった斜面が見える。港には10管の巡視船が停泊する=9日午後1時5分、十島村悪石島
山肌はむき出しとなっていて、周囲の海水は黄土色に濁っていた-。鹿児島県十島村悪石島を中心にトカラ列島近海で続く群発地震。第10管区海上保安本部は9日、同部所属のプロペラ機「うみつばめ」で県内の主な海域火山を観測した。専門家らと同乗取材し上空から地震の現場を見つめた。
霧島市の鹿児島航空基地を午前11時前に出発し、悪石島到着は午後1時ごろ。青々とした森や瑠璃色の海と、黄土色の崩れた山肌とのギャップに胸が締め付けられた。やすら浜港には、休憩所として開放する10管の巡視船が見えたが、集落や港に人けはなかった。島外避難が続き残る島民は20人。寂しくそびえ立つ沿岸部の絶壁には、土砂が流れた跡のような、赤や茶色の縦じま模様がついていた。
隣に座った京都大学防災研究所付属火山防災研究センターの中道治久センター長は「島沿岸部の変色水域に注目している」と語った。火山活動を裏付ける貴重なデータだという。
悪石島の前には霧島連山の上空も回った。近づいた時、急に異臭が鼻をついた。機内を見渡しても異常はない。窓をのぞくと、雲で山頂が隠れた新燃岳が見え、周辺の田園地帯には火山灰のようなもやが広がっていた。硫黄臭は一連の火山活動の影響だろうか。
帰着後、中道センター長は報道陣の取材に応じた。活火山に特段異変はなかったとして上で一連の群発地震について「本震・余震がある地震とは明らかにメカニズムが違う」と指摘。「マグマなど何かしらの流体が(原因に)絡んでいるのでは」との見解を示した。
約5時間のフライトで悪石島の生々しい災害の爪痕に触れた。家畜の世話などのため避難できず、島にとどまる住民の安全を願わずにはいられなかった。