過去最多でも「氷山の一角」 奄美で野生生物の持ち出しが続出 地元から規制強化求める声も【世界自然遺産登録4年】

2025/07/26 21:00
動植物保護へ来島者に啓発チラシを手渡す奄美市職員=19日、奄美市笠利の奄美空港
動植物保護へ来島者に啓発チラシを手渡す奄美市職員=19日、奄美市笠利の奄美空港
 「奄美・沖縄」が世界自然遺産に登録されて26日で4年となった。生物の多様性が注目を集める中、鹿児島県の奄美大島と徳之島では、野生生物を島外へ持ち出そうとする事例が後を絶たない。地元からは規制強化を求める声も上がる。「島の宝」を守ろうと、国や自治体は啓発に力を入れる。

 「動植物保護に協力を」。19日、奄美市の奄美空港で同市職員の神田あんず主査(34)は観光客に呼びかけながら、捕獲や採取ができない動植物と場所を記したチラシを手渡した。

 奄美大島5市町村と環境省は観光客が増える夏の週末、密猟や盗掘を防ごうと空港での啓発を強化する。荷物から動植物が見つかった場合は、違法でないか調べる水際対策にも当たる。

 島内では5月、国指定天然記念物のオカヤドカリ約5000匹を許可なく捕獲した中国籍の男3人が文化財保護法違反罪で罰金刑を受けた。7月には国立公園内で違法な昆虫用わなの設置を繰り返す行為もあった。

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 捕獲が禁止されていない種が狙われるケースも増えている。同省は「希少種でなくても大量に持ち出されると、生態系に影響を与える恐れがある」とする。

 奄美空港では2024年度、野生生物の持ち出しが過去最多の87件確認され、半数がペットとして人気のイモリやクワガタだった。いずれも規制対象外のため、持ち出しを禁じる手だてはない。船舶や宅配物は検査も難しく、同省は「氷山の一角」とみている。

 こうした背景から地元自治体などは6月、動植物の持ち出し自粛を求める共同文書を発信した。しかし、7月には徳之島でクワガタを捕るためのわな約30個が見つかるなど、「お願いベース」には限界がある。

 ボランティアでパトロールするNPO法人「徳之島虹の会」(伊仙町)は、種の採取を独自に制限する条例制定を徳之島3町に求める。美延睦美事務局長(62)は「監視には限界がある。遺産の島を守るために規制してほしい」と訴える。

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 奄美・沖縄では、人々と自然が長年共生してきた歴史がある。16日に奄美市であった関係機関の会議では、「自然との共生」をいかに進めるかについて、参加者から意見が相次いだ。

 野生生物捕獲の一律の規制は、子どもたちの自然体験や研究者の調査機会を奪いかねない。環境省の山本以智人・国立公園保護管理企画官(42)は「生き物に触れて好きになることが、自然保護に興味を持つきっかけになる」と、規制には負の面もあるとみる。

 環境省奄美群島国立公園管理事務所の広野行男所長(52)は、野生生物の持ち出し対策について「パトロールやカメラ設置の監視に加え、地道な情報発信の継続が重要」と指摘。「行政だけでなく、地域や観光客と一体となって生物の多様性を守っていきたい」と話した。

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