全車通行止めを案内する標識=22日、出水市高尾野
鹿児島県の出水市とさつま町にまたがる北薩横断道路の北薩トンネル(4.85キロ)で大規模な土砂流入の発生確認から、27日で1年となった。全面通行止めが続き、復旧のめどはたっていない。北薩地区の主要道として住民や事業者の利用が多かっただけに、早期の通行再開を望む声は強い。
出水市の高尾野中学校に赴任して3年目の東歩美教諭(51)は、姶良市の自宅から自家用車で通勤している。北薩トンネル利用時は片道1時間だったが、不通になってからは薩摩川内市東郷から横座トンネルを経由して通う日々で、所要時間は15~20分増えた。
家庭の事情で朝は決まった時間にしか出られず、学校に着くのは1年前と比べて遅くなった。「かなり不便で、体力面や心の余裕にも影響している」と話す。
出水市高尾野の電気工事業「野村電設」では、霧島市やさつま町で仕事がある時に従業員が北薩トンネルを利用してきた。ただ現在は迂回(うかい)路の国道328号を使っている。
カーブが多く起伏もある紫尾峠越えの国道328号に比べてトンネルは走りやすく、時間短縮できる上に車の燃料も少なく済んだ。野村憲作社長(47)は早期復旧を望みつつ、「同じようなことが起きないよう県にはしっかり対応してほしい」と願う。
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北薩トンネルは2018年3月に供用開始。21年度の交通量は1日当たり約1400台だった。
県北薩地域振興局によると昨年7月25日に出水市側入り口から1.8キロ付近で路面隆起が確認され、さつま泊野インターチェンジ(IC)-高尾野ICを通行止め。翌26日に壁面コンクリートが剝がれ、27日には大量の水や土砂が流れ込みトンネル内をほぼふさいだ。
地下水圧の上昇が主因とみられ、現在も毎時100トンの湧水が流れ込む。県は水抜き工事を進めており、土砂流入でできた壁面裏側の空洞部分などを調査して復旧工法を決定。26年度中に本体工事に取りかかる見込みだが、「完了の見通しはたっていない」という。
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さつま町消防本部は町外搬送時に北薩トンネルを重宝してきたが、昨年11月の阿久根市内への施設間搬送時は遠回りせざるを得なかった。救急係の担当者はトンネルの重要性について「時間短縮はもちろん、道路環境もよく救護者の負担も少ない」と指摘する。
トンネルのさつま町側に位置する泊野地区の農業楠八重英雄さん(78)は通行止め以降、出水市方面に行く機会がめっきり減った。「国道328号は遠回りな上、大型車が増え、冬場は路面凍結することもある。走るのが怖い」と話す。
復旧工事の進ちょく状況や通行見通しを知りたいが分からないことも多い。県はホームページなどで情報発信するものの、「直接聞かないと詳しいことがはっきりしない。説明会でも開いてくれればありがたいのだが」と要望した。