医療へき地をつくらない――県が修学資金を貸与、318人が活用した鹿児島大学の推薦入試制度「地域枠」とは? 成果と課題を探った

2025/08/03 18:07
離島の診療所で研修を受ける地域枠の学生=2018年、奄美市(鹿大大学院離島へき地医療人育成センター提供)
離島の診療所で研修を受ける地域枠の学生=2018年、奄美市(鹿大大学院離島へき地医療人育成センター提供)
 離島やへき地で一定期間働くことを条件に、鹿児島県から修学資金貸与を受けて鹿児島大学医学部に入学する「地域枠」が開設されて20年を迎えた。これまでに今春入学の20人を含む計318人が活用。地方の医師不足が進む中、義務期間終了後も多くの医師が県内で働き、専門医の確保につながっている。

 「生まれ育った鹿児島に貢献できる医師になりたい」。地域枠で進学した鹿大医学部3年の大栄美天(みそら)さん(22)は将来の目標を語る。

 和泊町出身。沖永良部島には診療科が少なく、急病などの際は県本土や沖縄県に行くケースがある。離島の医療体制の不十分さを実感しており「専門外も診られる医師にならなければ」と意気込む。

 地域枠は2006年度に始まった。県内の高校出身者を対象に、推薦入試で選抜する。大学で6年間学び、医師免許取得後の9年間離島や地域の中核病院に勤める。義務を果たすと修学資金940万円の返還が免除される。

 義務を全うしたのは10人で、そのうち9人が鹿大医局に所属する。県医師・看護人材課の是枝重幸課長は「医師の偏在を改善し、幅広い経験を積んだ医師を増やしている」と評価する。県によると、これまでに資金を返還したのは14人(4.4%)。大半は在学中か、離島などで地域医療に従事している。

 制度も改善を重ねている。専門医の取得には数年間研修を受ける必要があるが、地方では環境が不十分な場合もある。そのため13年度から義務を一時中断して県内外で研修や留学ができる5年の猶予期間を設けた。出産などのライフイベントにも対応。22年度には産休・育休、介護休暇を猶予期間外で取得できるように改め、これまで男女25人が取得した。

 薩摩川内市の済生会川内病院で働く上村征央さん(34)は、猶予期間を活用して鹿児島市の病院で働き、内科と腎臓内科の専門医資格を取った。上村さんは「専門的な治療ができる病院で学べた経験は大きい」としつつ、「猶予があと1~2年長い方が専門医を取りやすくなる」と話す。

 大学側は、卒業生が離島へき地で安心して働けるように学生時からサポートする。大学1、2年生は現地の病院で実習し、3年生には自主研究を課す。「事前に訪れることで働くイメージが持てる。相談しやすい体制もつくっている」と嶽崎俊郎・鹿大病院地域医療支援センター長は話す。

 一方、地方の医師不足は続く。22年の国の調査では鹿児島市などの鹿児島医療圏を除き、人口あたりの医師数がいずれの医療圏も全国平均を下回る。嶽崎センター長は「鹿児島に残る医師を増やすため、地域枠以外の方法も考えなければならない」と指摘した。

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