本番に向けて稽古する団員ら=南九州市の知覧文化会館
鹿児島県南九州市を拠点に活動する「劇団いぶき」は戦後80年の節目に、実在した特攻隊員・穴澤利夫大尉(出撃時少尉)と婚約者・智恵子さんを描いた舞台「見上げる空の彼方に」を9、10日、同市の知覧文化会館で開く。当時の2人の手紙や日記などから、人間の愛や希望、別れに迫る。本番を控え、メンバーの稽古に熱が帯びる。
穴澤大尉は福島県出身で、第20振武隊の一員として23歳の若さで1945年4月12日に知覧飛行場から出撃した。中央大学に通いながら図書室の司書としてアルバイトをしていた際に、司書の実習を受けていた伊達(旧姓孫田)智恵子さん=2013年没=と出会い、約3年間交際。知覧特攻平和会館に2人がやりとりした手紙や日記の写しなどがあり、舞台の台詞に盛り込まれた。
約30人が所属するいぶきは、旧知覧町連合青年団の演劇部として1977年に発足。朗読会以外で初めて特攻隊員を題材に取り上げる。県内の俳優や鹿児島高校演劇部、川辺フィルハーモニー管弦楽団が加わり、過去最大の約60人規模になった。
稽古は4月にスタート。穴澤大尉役の宮田晃志さん(36)は「智恵子さんや国のことを思い飛び立った穴澤さんの心情を真っすぐに伝えたい」。脚本・演出担当の朝隈克博さん(63)は「2人のような人たちがいた事実を知り、考えてもらいたい。智恵子さんの祈りを伝えきれているか、開演まで全員で考え続ける」と語る。
開演は9日午後6時と10日午後2時。前売り一般2000円、高校生以下1000円(いずれも当日300円増)。未就学児は入場不可、託児所あり。チケット予約は電話0993(83)2326、メールgekidan@ibuki.fun
◇穴澤大尉の手紙や遺品を展示~知覧特攻平和会館
太平洋戦争末期に旧陸軍知覧飛行場から出撃した特攻隊員の生い立ちに焦点を当てた企画展が、南九州市の知覧特攻平和会館で開かれている。10月末までに3人を紹介する予定で、1人目は穴澤利夫大尉。婚約者の智恵子さんに宛てた手紙やたばこなどを展示する。
手紙は「あなたは過去に生きるのではない」「穴澤は現実の世界にはもう存在しない」などと決別を伝えながらも、末尾に「会いたい、話したい、無性に」とあり、出撃を前に揺れ動く思いが赤裸々につづられている。穴澤大尉関連の展示は9月1日まで。