米国に振り回される肉牛生産現場「業界全体に不信感」――米関税上乗せ、修正…「時期分からず不安」「米国以外の販路も」

2025/08/09 11:43
米国向け県内農林水産物輸出で最多の牛肉。生産者は関税率に気をもむ=南九州市
米国向け県内農林水産物輸出で最多の牛肉。生産者は関税率に気をもむ=南九州市
 トランプ米政権が7日発動した新たな相互関税を巡る混乱は、鹿児島県内の生産者にも衝撃を与えた。一夜明けた8日、米国側が修正に応じることで収束に向かいつつあるが、肉用牛生産者からは「本来の税率に戻る時期が分からず不安」「米国以外の輸出先を考えたい」などの声が上がった。

 4月に課された一律10%の上乗せにより、日本から米国に輸出する牛肉の関税率は36.4%になっていた。新たな相互関税では、上乗せ前の26.4%に戻る予定だったが、発動された内容は15%が追加され、41.4%となっていた。

 食肉加工処理・販売のカミチク(鹿児島市)の上村幸生海外事業部長(34)は「戻るはずだった税率と、発動された税率の差があまりにも大きい。和牛業界全体に不信感がある」と不安を口にする。

 日本政府の説明を聞いても、いつの段階で本来の税率に戻るのか、本当に実行されるのか分からない。「実際の税率がどうなるのか。対応が難しい」と上村部長。欧州連合(EU)やシンガポール、香港といった輸出先の多角化を進める。

 牛肉は、県の輸出上の重要品目となっている。2024年度の農林水産物輸出額約470億円のうち、牛肉は172億円以上と4割近くを占める大きな柱。主な輸出先は米国やEUだ。

 阿久根市で黒毛和牛約250頭を肥育する野崎満浩さん(65)は「輸出が良い流れにある中、生産現場は米国に振り回されている。速やかに元の26.4%に戻して」と注文する。

 一方で、7月中旬から日本産牛肉の対中輸出再開に向けた交渉が本格化し、人口14億人超の巨大市場に県内でも期待感が高まっている。野崎さんも「中国は富裕層も多いと聞き、需要が見込めそう」と明かす。

 県畜産振興課の上山勝行畜産流通対策監は「どんな状況でも、米国が重要な相手国なのは変わらない」としつつ、「輸出先国の多角化、米国以外の販路開拓に生産者とともに取り組んでいく」と話した。

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