「会いたい、話したい、無性に」23歳の特攻隊員が婚約者に残した遺書 “舞台化”を避けていた知覧の元平和館長が80年目に込めた祈り

2025/08/14 11:18
朝隈克博さん
朝隈克博さん
■かお・知覧を飛び立った特攻隊員と婚約者を描く舞台の脚本・演出を担当する 朝隈克博(あさくま・よしひろ)さん

 鹿児島県南九州市を拠点に活動する「劇団いぶき」で40年近く脚本・演出を手がける。戦後80年の節目に、実在の特攻隊員の穴澤利夫大尉と婚約者の智恵子さんを題材にした舞台「見上げる空の彼方(かなた)に」を知覧文化会館で9、10の両日公演。「戦争に人生を翻弄(ほんろう)された2人の祈りを届けたい」と語る。

 30本以上書いてきた作品はコメディー中心で、朗読会以外で特攻隊員を取り上げるのは初めて。元市職員で知覧特攻平和会館の館長を務めた経験もあり、「生い立ちや思いが一人一人異なる特攻隊員を、自分の価値観に落とし込むようなことはしたくない」と避けてきたからだ。それでも「いつか何かできないか」という思いが消えることはなく自分を突き動かした。

 福島県出身の穴澤大尉は、中央大学在学中にアルバイト先の図書室で智恵子さんと出会い3年間交際し、23歳の若さで知覧を飛び立った。遺書には別れを告げながらも、「会いたい、話したい、無性に」と揺れ動く心情がつづられる。せりふの多くは、2人が交わした手紙や穴澤大尉の日記、智恵子さんの4時間にわたる証言から構成される。「余計な演出はせず、ありのままを伝える。観客に感じて考えてもらいたい」

 俳優陣は4月から稽古に入り悩みながら役を生きてきた。舞台袖には穴澤大尉と智恵子さんの写真が置かれるようになった。「仲間たちと支えてくれる地域の方々のおかげでここまで続けられた」。知覧町東別府に妻と暮らす。63歳。

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