流木などがひっかかった状態の下川原橋。グループホームは対岸にある=13日、曽於市末吉町岩崎
鹿児島県の霧島市や姶良市に大きな被害をもたらした8日未明の線状降水帯。霧島市に隣接する曽於市でも家屋などの浸水が相次ぎ、避難を余儀なくされた住民がいた。冠水した車から救出された人は複数に上った。大隅曽於地区消防組合(同市大隅)の出動記録などを基に、緊迫した当時の状況を振り返り、被害の実態に迫る。
同消防組合の雨量計は、7日午後7時から8日午前5時までの10時間に324.5ミリを観測。文字通りバケツをひっくり返したような激しい雨だった。曽於市によると、床上・床下浸水は49棟(大隅26、財部12、末吉11)に上る。
119番通報は8日午前4時8分を皮切りに次々と入った。岩川郵便局や飲食店、商店が並ぶ県道志布志福山線沿いの住民から「住宅内に浸水し、畳が浮き始めた」という内容。同4時20分すぎ、110番も入り出す。一帯は約400メートルにわたって冠水した。
◆郵便局でバイク13台が水損
隊員が救命ボートで捜索を始め、住宅に取り残された人など8人を救出したのは午前6時すぎ。日本郵便九州支社(熊本市)によると、岩川郵便局は60~70センチの高さまで浸水し、窓口業務や現金自動預払機(ATM)の利用ができなくなった。車両4台、バイク13台が水損。配達業務は10日から再開したが、全面復旧の見通しは立っていない。
約20年前も水害に遭ったという自営業の男性は後片付けに追われながら「河川の抜本的な改修をしてほしい」と強く訴えた。県道の間近を前川が流れ、近くで菱田川が合流する。男性は、氾濫に加え、川からの逆流で大量の水が市街地に流れ込んだと証言する。
午前6時すぎには、菱田川沿いの末吉町岩崎のグループホームから「背丈まで浸水」と、曽於市役所を通じて通報が入った。10人以上の利用者は事前に高台へ避難させて無事だったが、逃げ遅れていれば危険な状況になった可能性がある。浸水は高さ2メートル以上に達したという。
◆「29年住んでいて初めて」
菱田川と前川の合流付近にある大隅町中之内の元八幡地区では、子どもから大人まで十数人が消防のマイクロバスで近くの農業構造改善センターに避難した。抜迫キヨ子さん(74)は午前7時ごろ、玄関口まで水が押し寄せているのに気づいた。消防隊員が来て「すぐに避難を」と呼びかけたという。抜迫さんは「29年住んでいるが、ここまで浸水したのは初めてでびっくりした。何とか安心できる対策を講じてもらいたい」と話した。
財部でも冠水があり、同消防組合財部分署の隊員らが軽トラックに取り残されたドライバーら複数人を救助した。