着々と進む馬毛島の自衛隊基地整備 基地問題の研究者「既成事実化進み反対派住民にも諦め広がる」 FCLP開始前に地元自治体がすべきこととは

2025/08/18 11:00
〈資料写真〉自衛隊基地の整備が進む馬毛島=1月10日、西之表市の馬毛島上空(本社チャーター機から撮影)
〈資料写真〉自衛隊基地の整備が進む馬毛島=1月10日、西之表市の馬毛島上空(本社チャーター機から撮影)
 鹿児島県西之表市馬毛島の自衛隊基地整備は本格着工から2年半が過ぎ、先遣隊の島内業務も始まった。在日米軍基地の騒音問題や馬毛島に関する政府の意思決定手続きを研究する愛媛大学の朝井志歩教授(社会学)は、国が基地計画の既成事実化を進め、当初反対していた住民の間に諦めが広がったとみる。今後予定される米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)については「訓練開始前に騒音測定器を種子島に設置し、平時の状態を記録しておくべきだ」と話す。

 -国の計画の進め方をどう評価するか。

 「国が森林法違反の恐れがある開発をしていた地権者から土地を購入したことや、基地とは直接関わらないとして環境影響評価が終わる前に島の外周道路の工事を始めた点は法の形骸化といえる。地元同意の前に周辺海域の工事を進め、予算を計上、米軍再編交付金の支給を決定することで計画の既成事実化も進めた」

 「法の形骸化や計画の既成事実化は岩国(山口)や辺野古(沖縄)の基地建設でも見られた。馬毛島の特徴は、地元の西之表市長が明確に同意を表明していないにも関わらず、国が馬毛島の市有地売却を決断した市長の行動を同意とみなした点だ。地元首長の同意を得た後に手続きを進めるこれまでの慣行から明らかに逸脱している」

 -国はなぜ同意とみなしたとみるか。

 「2022年9月に馬毛島の市有地売却と市道の廃止、西之表市の自衛隊宿舎用地売却の3議案を市議会に提出したのが転換点だった。国はすぐに米軍再編交付金を支給する方針を固めた。市長が明確な受け入れ表明をしなくても、これらの行動をもって同意とみなしたのだろう」

 「手続きを軽視し性急に進めると、政策を実行する前にさまざまな意見を出し合い、問題点を指摘する機会を確保できなくなる。政策の瑕疵(かし)を見落とし、計画の目的を達成できない可能性もある」

 -住民からは「国の事業だから仕方がない」という声が上がる。

 「米軍基地を抱える岩国市でも、政策の既成事実化が強まることによって諦めや反対することに疲れた、という声が聞かれるようになった。同じことが種子島でも起きつつあるのではないか」

 -今後予定されるFCLPに備え、地元自治体ができることは。

 「騒音問題の発生に備え、地元自治体は訓練が始まる前に測定器を購入し、種子島の各地に設置するべきだ。全国の騒音訴訟では音の大きさが住民の受忍限度を超えているかどうかが争点になった。現在の環境を数値として記録することで、訓練開始後と比較できる。静かな環境で暮らしてきた種子島の人々にとって、耐えられる騒音なのかを示す一つの証拠となるはずだ」

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