自動車整備工場に流れ込んだ泥をかき出す従業員=22日午前11時40分、南九州市川辺町上山田
22日にかけて鹿児島県内に記録的な大雨をもたらした台風12号。氾濫した川の濁流は、南さつま市など南薩地域の住宅地に押し寄せ、建物や家財に深刻な被害を与えた。「発生」からわずか8時間後に上陸という急発達した台風に備えがままならず、ボートで救出される人の姿も。被災住民らは「経験のない雨だ」「全く見通せなかった」と口をそろえ、復旧作業に追われた。
南さつま市加世田内山田を流れる加世田川の周辺地域は、堤防の越水で約1.4メートル冠水した。近くで瓦製造をする下舞工業所は、倉庫に草木が流れ込み、車や機械類が漬かった。
22日朝、目の当たりにした営業担当福元悦夫さん(69)は「事務所のパソコンも水没した。何十年分のデータが失われたかもしれない」と心配を隠せない。下舞博会長(75)は「見通しが甘く予想以上の被害を受けた」と嘆いた。
「あっという間に道路が川のようになり、家にたどり着けなかった」。南九州市川辺町上山田の国道225号沿いで自動車整備工場を営む本門俊一郎さん(54)は近くの大谷川が氾濫した21日夕を振り返る。
午後3時、消防団活動のため工場を離れた。間もなく父親から「水が迫っている。工場の車を動かしたい」と電話を受けた。急いで国道に出たが水が膝上まで押し寄せ、倒木が道をふさいだ。車で1、2分の距離が遠かったという。
一時水没した工場内には大量の泥や漏れ出した廃油がたまった。「しばらく掃除しかできそうにない」と、忙しく動き回った。
21日夕は、日置市日吉町日置の橋上和夫さん(82)方近くを流れる溝の土手も崩れた。敷地に濁流が流れ込み、クーラーの室外機は水没。親が住んでいた家も浸水し家族4人で一時避難所に。「どうしようもない」と語り、後片付けに追われた。
鹿児島市南部の和田川流域では、22日早朝から住民が土砂をスコップでかき出す作業が目立った。地元の立中正文さん(75)は、被災住民の胸中を代弁するように語る。「膝上まで水があふれ、道路も崩れた。二度と怖い思いをせぬよう、工事をしてほしい」