「持ってるけど暑いから…」釣り人の8割がライフジャケット未着用、死亡事故相次ぐ 海上保安部「平坦な岸壁でも危険」

2025/08/24 11:30
釣り客にライフジャケット着用を呼びかける海上保安官=7月、霧島市福山の福山港湾緑地広場
釣り客にライフジャケット着用を呼びかける海上保安官=7月、霧島市福山の福山港湾緑地広場
 鹿児島県内で救命胴衣(ライフジャケット)を着用していない釣り客や海水浴客が亡くなったり行方不明になったりする事故が相次いでいる。鹿児島湾などを管轄する鹿児島海上保安部管内では2020~24年、釣り中の海中転落で12人が死亡・行方不明となり、うち10人がライフジャケットを着けていなかった。他にも、遊泳中に浮輪が風に飛ばされて死亡した人もいた。同保安部は「命を守るため、着用を徹底してほしい」と呼びかけている。

 7月下旬、霧島市の福山港には数人の釣り客の姿があった。同市国分敷根の無職男性(73)は2月、ライフジャケットを着けないまま岸壁釣りの片付けをしていた際、誤って海に落ちたという。「近くの人が助けてくれたが、命を落とすところだった。着用の必要性が身に染みた」と振り返る。一方、別の釣り客は「持っているが暑い」と、着用していなかった。

 同保安部によると、20~24年に管内で確認された釣り中の事故者は40人で、最多は海中転落の32人だった。ライフジャケットの着用状況に注目すると、8人が着用、24人が非着用だった。着用者は6人が助かり、2人は死亡・行方不明となった。非着用者では14人は助かったが、10人が死亡・行方不明となっている。発生場所別にみると、岸壁や防波堤にいた21人のうち19人が着けていなかった。

 同保安部の岩本大樹次長は「平たんな防波堤や岸壁でも、つまづいたり突然の大波にさらわれたり危険は多い。夏は保冷剤を活用するなど熱中症対策をしながら着用して」と強調した。

 ライフジャケットの必要性について、第10管区海上保安本部は「海水浴中も変わらない」と指摘する。特に浮輪を使う子どもや高齢者に有効としている。

 10管によると、20~24年に県内で確認された遊泳中の死亡・行方不明者は26人。23年7月には、鹿児島市喜入で孫と遊泳中だった男性=当時(66)=が、急に海底に足が着かなくなり助けを求めたが、浮輪が風に飛ばされ死亡。ライフジャケットがあれば助かった事例だったとみられる。

 10管交通部金谷英明安全対策課長は「ライフジャケットは自身と家族の命を守る。携帯電話を防水パックに入れるなど、連絡手段も確保してほしい」と注意を促している。

■正しい着用と点検が必須

ライフジャケットには目的や用途に合わせた3種類がある。不適切な着用や点検不足だと機能せず、命を落としかねない。第10管区海上保安本部は正しい着用方法の周知を図っている。

 10管によると、(1)固形式(2)膨張式(3)子供用-に分類される。発泡プラスチックなどを使った固形式は常に浮力を確保でき、繰り返し使用可能で比較的安価で手に入る。膨張式は水を感知したらガスボンベでジャケットを膨らませる仕組み。手動式もある。コンパクトで動きやすいが、ボンベは使い切りのため点検が欠かせない。子供用は固形式に股下のベルトが付き、落水時に脱げるリスクが低い。

 着用していたにもかかわらず、使い方が不十分だった例もある。今年4月、指宿市の港からボートで釣りに出かけた70代男性が海上で亡くなっているのが見つかった。10管によると、膨張式を着けていたがボンベが取り付けられておらず、膨らんでいなかった。

 金谷英明安全対策課長は着用時の注意点を把握してほしいとした上で、「体に合わせて着ないと脱げるリスクもある。落下時の衝撃やけがを防げるかにも注意を払って」と話した。

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