大規模浸水で200人が一時孤立… 暗闇と濁流の中、相次ぐ救助要請に対応した消防隊員が語る教訓〈台風12号被災の南さつま市〉

2025/08/30 17:00
後方のボートから女児を降ろし、抱きかかえて送り届ける救助隊員=21日午後7時半ごろ、南さつま市加世田内山田(読者提供)
後方のボートから女児を降ろし、抱きかかえて送り届ける救助隊員=21日午後7時半ごろ、南さつま市加世田内山田(読者提供)
 台風12号は異例の高緯度で突如発生し鹿児島県本土を横断、各地に記録的な大雨をもたらした。濁った水が短時間で町を覆い、住民をほんろう。南さつま市によると、加世田内山田では大規模な浸水によって約200人が一時孤立し、10人が消防に救助された。21日の台風上陸から1週間余り。同市消防本部の記録を基に、濁流と暗闇の中で繰り広げられた緊迫の救助活動を振り返る。

 午後4時57分、60代女性が車で帰宅途中に冠水に巻き込まれ、住宅の壁につかまって救助を待っているとの情報提供があった。身長170センチ近い南さつま消防署の鮫島健太司令補(41)は、足が付かないほど深い水の中を泳ぎ、水上に顔だけ出していた女性に近づいた。浮輪とロープを使って陸へ。女性は低体温症の疑いで搬送された。

 宮内直樹司令補(45)は午後6時11分、指揮車で内山田へ向かった。冠水で道路はふさがり、迂回(うかい)路を通って何とか現地へ。濁流に飲まれた住宅地を見て言葉を失った。水没した車のクラクションが鳴り響き、ライトが不気味に光っていた。「こんなに漬かったのは見たことがない」

 午後6時38分、アパート2階通路に避難した5人の救助要請が入った。小学1年女児が含まれる。約40分後、ボートを積んだ資器材搬送車で今村元哉消防士長(35)らが到着。サイレンの音に「消防が来てくれた。これで助かった」と感謝された。

 ゴムボートを膨らませて5人を乗せ、宮内司令補も加わって4人で押した。暗い中、腰の高さまである水と格闘しながら進み続けた。

 さらにボートで午後7時34分に80代女性、午後8時26分に90代女性の救出へ向かった。水深は1メートル以下に下がったが、水が引く流れが速くなり「自分たちが歩くのもきついくらい。約200メートルが長かった」と今村消防士長。救助の傍ら、「避難しませんか」と残る住民たちに声をかけ続けた。言葉がうまく伝わらないベトナム人2人も消防によって救出された。

 出動したメンバーは「午後4時半から5時、一気に水が来たようだ。急すぎた」と振り返る。備える間のなかった災害。水に漬かりながら約2時間、救助活動を続けた宮内司令補は「(緊急度を高めに判断する)オーバートリアージでいい。特に高齢者は早く避難してほしい」と教訓を語った。

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