採算性で二の足? それとも出来レース? 〝海辺の一等地〟県有地へのホテル公募、参加は地元三セク1社のみ――きょう31日、非公開で事業者聞き取り 住吉町15番街区

2025/08/31 06:15
立地は桜島を望む鹿児島湾沿い。事業者が提示した周辺のデザインビジョン
立地は桜島を望む鹿児島湾沿い。事業者が提示した周辺のデザインビジョン
 鹿児島港本港区(鹿児島市)住吉町15番街区で大宴会場や会議室を備えたホテルを整備する民間事業者を選ぶ鹿児島県の公募に応じたのが、鹿児島サンロイヤルホテルを運営する鹿児島国際観光(同市)1社のみだったことが波紋を呼んでいる。公開の提案発表会では9階建てホテルの事業概要が明らかになり、新たなにぎわい創出に期待の声が上がる一方、「出来レース」との批判も根強い。評価委員会は31日、非公開で事業者に聞き取り調査し最優秀提案者を決める見通しで、判断が注目される。

 公募対象とするのは県有地2万4777平方メートル。鹿児島国際観光は昨年8月、建物の老朽化のため同地に移転新築したい意向を表明した。県は公平性の観点から公募を決定。国際会議の開催や食事の提供が可能な宴会場など「バンケット機能」を持つホテルとして利活用することとし、今年3月に公募要領を公表した。

 4月の説明会には県内外の6社が出席したが、提案書を出したのは県や鹿児島市などが出資する第三セクターでもある鹿児島国際観光だけだった。塩田康一知事は22日の会見で「複数の選択肢があった方がよかったのかもしれない」と認めつつ、「それぞれの経営判断。公募要領に問題はない」と受け止めた。

■二の足

 ある県幹部は整備の条件であるバンケット機能を巡り「採算性でハードルとなった面があったのかもしれない」と推察する。人件費や資材高騰、人手不足もあり、桜島や鹿児島湾を望む“一等地”でも二の足を踏んだ可能性を指摘した。

 鹿児島市議会の野口英一郎議員(53)は「既に結果が決まっているという出来レースの印象を拭えなかったのが要因では。この場所を魅力的に使える環境にないと民間に思われているなら残念」と指摘。国際会議や展示会などMICE(マイス)の競争も厳しいとし「造ればイベントが誘致できる時代ではない」と断じる。

 鹿児島国際観光の提案によると、ホテルの1~3階に宴会場や会議室を配置。2階の大宴会場は1600平方メートル、最大2000人を収容できる。近くのドルフィンポート跡地に県が計画する新総合体育館は「会議室が不足する」ため機能を補完し、分科会や懇親会利用を想定。計281室の客室は全て約30平方メートル以上と広めの造り。来館者用駐車場の2階部分は海鮮やウナギを楽しめる「海の屋台村(仮称)」として整備する。

 南薩観光(南九州市)の菊永正三社長(56)は「にぎわい創出へのワクワク感はあった」とし、「高級クルーズ船が寄港する北ふ頭からも徒歩圏内。事業者に決まれば海辺を生かした街づくりの拠点として中身を磨き上げてほしい」と願う。

■物語性

 事業コンセプトや収支計画、県内経済への貢献度合いなどを審査する評価委員会の委員は宮廻甫允(みやさこ・としみつ)委員長=鹿児島大学名誉教授=を含め6人。そのうち3人は県幹部が占める。

 鹿児島市の建築家政所顕吾さん(40)は「どんな提案をしても県の意向が大きく反映される」と委員構成に違和感を示す。提案について「2000人規模のバンケットを備えるなら顧客は富裕層が想定されるが、海の屋台村でいいのか。ターゲットが明確でなく、一等地にふさわしい質の高い提案とは言い難い」と話す。

 委員の一人で長岡造形大学(新潟県長岡市)の川島茂教授は「昨今のホテルは独自の明快なコンセプトのもと、宿泊客の新たなニーズに応えるのが生き残りの必須条件」と指摘。星野リゾートの「星のや」を例に「複合建築は各機能がどう結ばれるのかという物語性が重要。残念ながら説明がもう一息だ」と評した。

 提案発表の終盤、マイクを握った鹿児島国際観光の下津昭則社長は「これまでにない斬新な機能を備える。地域に愛されるホテルとして事業を実現できるよう努力する」と力を込めた。

 県PR観光課の東俊浩・PR観光企画監は「1社のみの応募だからといって決定したわけではない」とし「委員には厳然と15番街区の事業者たり得るのか評価してほしい」と話した。

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