新人検事が向き合った暴力団内部の殺人事件…引き出した「証言」と見誤った「心の内」――鹿児島地検トップが胸に刻む捜査の心得

2025/09/28 21:20
鹿児島地検の藤野晃俊検事正=4日、鹿児島地検
鹿児島地検の藤野晃俊検事正=4日、鹿児島地検
■かお・鹿児島地検検事正に着任した藤野晃俊(ふじの・あきとし)さん

 東京地検などの「特捜部」勤務が10年以上と長い。警察から上がってくる事件とは違い、特捜部が端緒をつかむことの多い贈収賄、脱税などは目の前に被害者がいない分、立件のハードルは高い。それでも「社会に悪影響を与える犯罪を明るみに」と捜査に向き合ってきた。

 任官3年目の1999年に三重県で携わった、暴力団内部での殺人事件が記憶に残る。関与した人数など全容解明が難航する中、20代の暴力団員を担当した。黙秘が続く中、根気強く対話し、組織幹部の指示があったという証言を引き出した。「暴力団を辞める」と約束も交わし、心が通じ合ったと確信した。

 ところが裁判では、その団員は仲間と傍聴席に座っていた。「有罪を立証できても、団員の心の内までは分かっていなかった」。成功と失敗が入り交じる体験となったが、「捜査に簡単な答えはない。そう理解した上で真実に近づく努力は怠らないとの決意が固まった」。

 7月に着任した鹿児島地検には若手検事が多く、特捜部で培った経験は余すことなく伝えるつもりだ。「県民の信頼を損なわないため、『法と証拠に忠実に』という認識を改めて共有したい」と語る。

 兵庫県加西市出身。転勤先の土地の歴史に触れることが気分転換だ。鹿児島では平家打倒を企て平清盛の反感を買ったとされる平安時代の僧「俊寛」流刑地の有力候補、三島村硫黄島に行くのが目標。歴史ロマンの“全容解明”にも余念がない、単身赴任の58歳。

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