12人全員無罪の「志布志事件」 ねつ造を認めず謝罪もない鹿児島県警に住民は言う「あの組織はいつまでも変わらない」

2025/10/19 21:03
志布志事件当時の県警の対応を振り返る川畑幸夫さん=9月、志布志市
志布志事件当時の県警の対応を振り返る川畑幸夫さん=9月、志布志市
 不祥事の相次いだ鹿児島県警が再発防止策に取り組んで1年が過ぎた。刷新が期待される一方、県民の「県警は変わった」という実感は広がりを欠いているのが実情だ。連載「検証 鹿児島県警」第5部は、組織のあるべき姿を問い直し、改革の行方を展望する。(連載・検証 鹿児島県警第5部「組織改革の行方」④より)

 「開かれた組織であるべきなのに、いつまでも変わらない」。志布志市で焼酎用サツマイモを販売する中山信商店の中山信彦さん(53)は、県警不祥事の報道を見るたび、父信一さん(80)が警察に連行された二十数年前を思いだす。

 2003年、県議選で当選した信一さんは選挙運動で買収会合を開き計191万円の授受があったとされ、住民12人も含めて公選法違反の疑いで逮捕、起訴された。いわゆる「志布志事件」だ。

 その後、3年以上かけた裁判で信一さんのアリバイが認められ、鹿児島地裁は「強圧的な取り調べがあった」と指摘。買収自体も否定し、判決前に亡くなった1人を除く12人全員が無罪となった。

 信彦さんも取り調べを受け、話していない内容の調書にサインを求められた。「警察はいまだにねつ造と認めず、謝罪もない」という。

■ □ ■

 強引な捜査は当時、県警内部からも疑問視する声はあった。事件直後の志布志署に勤めたOBは「『一部の暴走』とみた人も多く、担当外の刑事はしらけていた」と明かす。

 無罪確定から半年後の07年8月、県警は「刑事企画課」を新設。取り調べを指導、管理し、自白の強要など問題になった捜査手法を改める「再発防止策」の一つだった。

 09年には警察庁がまとめた「警察捜査における取調べ適正化指針」に基づき、捜査外の警察官が取り調べを監視する監督制度が発足。1日8時間以上の取り調べは避けるべきとも規定した。全国的な改革は同年から始まった裁判員制度を前に、国民からの信頼を取り戻す狙いもあった。

 志布志事件に関わった野平康博弁護士は「弁護人が申し立てて、長時間の取り調べがなくなった例があった。一定の効果は感じる」と語る。

■ □ ■

 「再審や国賠請求等において、廃棄せずに保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません」。こう書かれた県警の文書が24年に発覚した。発出元は志布志事件の教訓をくんだはずの刑事企画課だった。

 同7月の県議会総務警察委員会では「えん罪につながる」と批判が相次ぎ、県警は「審査が不十分だった。廃棄した書類はない」と釈明した。

 志布志事件で強引な取り調べを受けた川畑幸夫さん(79)=志布志市=は当時、一部の署員から違法捜査を謝られたこともあった。ただ「事件を批判した人は冷遇され、捜査した人が出世したように映る。県民のために働く人がばかを見た」と語気を強める。

 野平弁護士は「志布志事件は結局、客観的な検証を受けなかった」と指摘。「捜査機関は本気になればねつ造できるからこそ公正さが重要。組織を変えるのであれば、改めて身内ではなく第三者のチェックが入る仕組みを考えなければならない」と断じる。

鹿児島のニュース(最新15件) >

日間ランキング >