鹿児島県警が再発防止に取り組む裏で起きていた警官の懲戒処分 情報開示には消極的 最大の〝不祥事〟の検証もこれから

2025/10/20 06:24
鹿児島県警の定例会見=9月30日、鹿児島市の県警本部
鹿児島県警の定例会見=9月30日、鹿児島市の県警本部
 不祥事の相次いだ鹿児島県警が再発防止策に取り組んで1年が過ぎた。刷新が期待される一方、県民の「県警は変わった」という実感は広がりを欠いているのが実情だ。連載「検証 鹿児島県警」第5部は、組織のあるべき姿を問い直し、改革の行方を展望する。(連載・検証 鹿児島県警第5部「組織改革の行方」⑤より)

 鹿児島県警は再生できるのか。複数の警察官に尋ねると「再発防止策が意識付けになる」「組織として忘れないための研修は必要だ」との声が聞かれた。ただ通常業務と並行して取り組むため、浸透には時間がかかるという見方もある。「不祥事は個人の資質によるところも大きい」と根絶の難しさものぞかせた。

 そんな懸念を裏付ける事態が、10月16日に発覚した。県内の巡査部長が正当な理由なく他人の尻などを撮影し、8月に懲戒処分を受けていた。

 しかし、県警は公表基準に満たない事案だとして発表していない。9月の県議会総務警察委員会でも今回の処分について説明していない。岩瀬聡本部長は同時期の定例会見で「職員は組織が非常に厳しい状況にあるという意識を持ち続け、真剣に施策に取り組んできた」と述べた。

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 組織改革に詳しい同志社大学の太田肇名誉教授(組織論)は「組織は後々になって重大な不祥事が判明した際、最も信頼を失う」と指摘する。

 今回の処分を例に「内部の理屈で公表の是非を決めるのは不適切。県民に不安を与える悪質な事案であれば、事実確認が取れたら速やかに説明するなど積極的な情報公開に努めるべきだ」と指弾した。

 県民が再発防止の取り組み状況を知る手段として、県警からの情報に限られている点にも不備があると分析する。

 一例として、弁護士や有識者でつくる「施策検討会」の設置を挙げた上で「県公安委員会とは別に、施策内容や進捗(しんちょく)状況を第三者の視点で検証、評価する仕組みを導入してもいい」と提言した。

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 県警が不祥事の再発防止策に取り組んで1年余り。“不祥事”として処理した、元生活安全部長の情報漏えい事件=国家公務員法(守秘義務)違反罪=の裁判はこれから開かれる。弁護側は「野川明輝前本部長が県警職員の犯罪行為を隠蔽(いんぺい)しようとした」ことを訴える公益通報だったとして無罪を主張する見込みだ。

 9月下旬、東京都内で取材に応じた野川前本部長は在任中の組織運営に対し「後悔しても取り戻せないところはあるが、最終的には意思疎通が不十分だった」と説明した。

 隠蔽疑惑を招いた一因として「私の発言に疑問があれば直接聞くはずだ。それができなかったのは自分が話しにくい相手だったのだろう」と述べた。地動説を唱えたガリレオ・ガリレイを例に「信頼を取り戻すまで何百年もかかった。数カ月で私を信じてもらえるとは思わないが、自分は『それでも地球は動いている』と考えている」と語った。

 最大の“不祥事”の検証は始まっておらず、情報開示に消極的な姿勢も県民の理解を得られていない。再生の道のりは険しい。=完=

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