探究なんかやっていると受験が心配? 「6年間の協同的学びで難関大学に多数合格。中退と不登校がゼロに」 佐藤学・東大名誉教授が鹿児島県で講演

2025/10/27 20:30
協同的な学びについて話す佐藤学東京大学名誉教授=いちき串木野市の神村学園
協同的な学びについて話す佐藤学東京大学名誉教授=いちき串木野市の神村学園
 学習指導要領は「主体的・対話的で深い学び」を掲げる。佐藤学東京大学名誉教授は1990年代に「学びの共同体」を提唱し、児童・生徒が主体的に学び合う協同的学びを追究してきた。佐藤名誉教授がこのほど、鹿児島県内の実践校を訪れ、いちき串木野市の神村学園で講演した。要旨を紹介する。

 協同的学びは基本的に4人一組で取り組むが、ただのグループ学習にしないためにはコツがある。まず、男女混合にする。異質な者同士のコラボレーション(協同)で探究が深まる。そして、少し難しい「ジャンプの課題」を与えると効果的だ。1人では難しくても、他者の助けを借りればクリアできるように設定すると、探究の夢中度が高まる。おしゃべりが目立つようなら、課題が易しすぎる。

 「真正の学び」を追求することが大事だ。英語なら原書を読ませる。言語は文化であり、翻訳した英語は、音程がずれた音楽を聴かされているようなもの。文法が正しくても表現として使えない。ある中学校では「不思議の国のアリス」の原書を用いた。中学生には少し難しいが、文脈でとらえ、言葉遊び的な楽しさも味わえる。2年間で学力が飛躍的に伸びた。

 生徒が前を向いて板書を写す、旧来型の一斉授業はすでに限界に来ている。特に日本の高校の授業は世界一古い。校外学習時間の減少や学力低下も深刻で、進学校でも学びを諦めてしまっている子が多い。これを何とかしたい。

 ある高校では、6年間協同的学びに取り組んだ結果、中退と不登校がゼロになった。今や難関大学に多数合格している。「探究なんかやっていると受験が心配」という声があるが、ちゃんと結果は出ている。学びの本質に迫れる「ジャンプの学び」を経験すれば、子どもは学ぶことが大好きになる。ぜひ一緒に取り組んでほしい。



 講演は、学びの共同体を実践する「九州学びの会」が11日に開いた研究大会の一環。九州各県の教員や学生105人が参加し、公開授業もあった。



 佐藤学東京大名誉教授が提唱する「学びの共同体」の理念に基づいた公開授業が、曽於市の柳迫小学校で開かれた。市内外から小中学校教諭ら約200人が参観し、授業の進め方などについて学んだ。

 市教育委員会は2023年度から、大学教員らが加わったシンクタンク機能を持つ「教育センター」を独自に設置。教師が一方的に教える知識伝達型の授業から、子ども同士が主体的に学び合う授業を根付かせようと研究を重ねてきた。柳迫小は研究協力校の一つ。

 10日に公開されたのは、1年(5人)と6年(16人)の算数の授業。1年生は「たしざん」を学ぶ単元に臨んだ。馬場口真也教諭は課題を示すと、発言を控える。子どもたちが協力しながら、自力で解く時間を確保するためだ。

 児童の席は話しやすいように配置。話し合いが停滞すると、馬場口教諭がいったん引き取り、再度グループに課題を戻す。「分からない=宝物」という意識を育むことを重視している。

 授業後の協議会では、児童の学ぶ姿から教師側が学んだ点を全員で共有。佐藤名誉教授による講演もあり、授業中に児童がつぶやきで自分自身の考えを表出しているとし、子ども同士の関係性ができつつあると論評した。

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