JR三次駅に停車する気動車「キハ47」(右)。奥の「キハ120」へ乗り換えるとローカル線の雰囲気は濃くなった=9月28日、広島県三次市
国は地方鉄道の存廃議論の目安として、1キロ当たりの1日平均利用客数(輸送密度)が千人未満を示す。鹿児島県内では直近3年間でJR指宿枕崎線の指宿-枕崎や肥薩線の吉松-隼人など4路線の区間が該当する。鉄路の維持か、バス転換か。県外の他路線で先行する取り組みは、いずれ県内の参考になるかもしれない。全国の現場を訪ねた。(連載かごしま地域交通 第5部「鉄路の行方」①より)
9月下旬、JR広島駅(広島市)は家族連れや訪日客で活気づいていた。南口に整備された再開発ビル2階に8月、広島電鉄の路面電車が発着するホームができた。路面電車が高架で乗り入れるのは全国初だ。同じ階には在来線と新幹線の改札口があり、利便性が一段と高まった。
在来線ホームを降りると、多くの電車が停車する中、気動車「キハ47」が目に入った。国鉄時代から活躍するディーゼル車両は鹿児島をはじめ各地のローカル線でなじみ深い。広島駅と岡山県新見市の備中神代(びっちゅうこうじろ)駅を結ぶ芸備線(159キロ)の乗り場だった。
交通機能の強化が進む広島駅発着とはいえ、岡山寄りの68キロはこのまま維持されるかの瀬戸際にある。2024年3月、国の主導で存廃を議論する「再構築協議会」が初めて設置された路線なのだ。
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目指す備中神代駅まで全44駅。直通列車はない。広島県北東に位置し、芸備線の中間くらいにある三次(みよし)駅(三次市)行きの快速列車に乗った。
午前11時すぎ、2両編成に50人ほどの乗客がいた。広島駅を出て六つ目の下深川駅までなら普通を含め1時間に2、3便。周囲は住宅街で、平日は通勤通学利用で混むらしい。休日だったが各駅で乗り降りする人もいた。
三次駅に着くと、ローカル線色が濃くなった。出迎えた車両はJR西が独自で導入した小型気動車「キハ120」。しかも1両編成。折り戸式のドア、整理券発行機、運賃掲示板がある車内は、バスのような雰囲気だ。10人くらいが乗り換えた。時刻表やカメラを手にしており、鉄道ファンや観光客と思われる。
30分ほどして備後庄原駅(庄原市)に着いた。ここから先が存廃議論の対象区間だ。車窓から人家は見えない。時折カサカサと木の枝が窓にこすれる音がした。
「廃線の危機と知って乗ったけど、ほぼ鉄道ファンしかいない感じ」。鉄道の旅が好きだという埼玉県の男子高専生(20)が話してくれた。
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2回目の乗り換え駅・備後落合(びんごおちあい=庄原市)は山間部にあるものの、松江市へ向かう木次(きすき)線にも接続する。長らく単線を来たせいか複数の車両が乗り入れるホームは大きく感じた。かつて山陽と山陰をつなぐ交通の要衝として栄えた駅舎では往時の写真や模型が出迎える。
駅舎前には人が集まっていた。元国鉄職員のボランティアガイド、永橋則夫さん(82)が地元の歴史や現状を説明していた。18年に廃線となった三江(さんこう)線(三次-島根県江津市)の二の舞にさせまいと毎日のように顔を出す。1万9000人を案内してきたという。「地方鉄道は大切な移動手段。なくすわけにいかない」
終点・備中神代駅に着いたのは午後4時前。最初の快速に乗ってから5時間たっていた。列車は実際には二つ先の新見駅まで乗り入れるため降りる人はいない。伯備線や姫新線が乗り入れ、特急が止まる拠点駅は、倉敷や岡山にも向かいやすかった。
広島-下深川の24年度輸送密度は8829人、下深川-三次1001人、三次-備後庄原370人、備後庄原-備中神代は56人。