上下分離で「軌跡の復活」を遂げた只見線 当時の町長は振り替える「鉄路を諦めることは、将来を捨てるようなもの」

2025/11/10 11:23
山や川に囲まれるJR只見線の会津川口駅=9月、福島県金山町
山や川に囲まれるJR只見線の会津川口駅=9月、福島県金山町
 国は地方鉄道の存廃議論の目安として、1キロ当たりの1日平均利用客数(輸送密度)が千人未満を示す。鹿児島県内では直近3年間でJR指宿枕崎線の指宿-枕崎や肥薩線の吉松-隼人など4路線の区間が該当する。鉄路の維持か、バス転換か。県外の他路線で先行する取り組みは、いずれ県内の参考になるかもしれない。全国の現場を訪ねた。(連載かごしま地域交通 第5部「鉄路の行方」⑤より)

 1両編成の列車が山裾を流れる川沿いや、線路に山が迫る中を行く。福島県のJR会津若松駅を小出駅(新潟県魚沼市)へ向かう只見線の始発は、午前6時過ぎに出発した。暑さが続く9月初旬の車内には高校生や観光客と思われる20人ほどが乗っている。

 両駅を結ぶ全長約135キロは山間部が多い「秘境路線」だ。絶景ポイントとされる付近では列車が減速し、案内が流れる。撮影に夢中になっている女性に乗客の一人が声をかけた。「今渡っている橋は、1度流された後に架け直したんです」。何度も乗っているのか、この先にも再建した橋があるとの説明が続いた。

 只見線は2011年7月の新潟・福島豪雨で被災。福島県内の会津川口(金山町)-只見(只見町)では3橋が流失し、他の被災箇所が復旧した後も不通のままだった。全線再開にこぎ着けたのは22年10月。もともと年3億円近い赤字路線の上、90億円という復旧費がネックとなり廃線が取り沙汰されたため「奇跡の復活」と呼ばれる。

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 復活は「上下分離」方式で実現した。鉄道施設を自治体が保有・管理し、JRが運行を担うやり方だ。只見線の会津川口-只見では地元が強く鉄道再開を求め、復旧後の赤字補塡への支援も辞さない姿勢が示された。その後、バス転換を主張していたJR東日本が打開策として提案、17年に合意した。復旧費はJRが3分の1、残りを国・県、県と沿線の会津17市町村でつくる基金が持った。

 施設の維持管理費は県と沿線が担う。「想定より大幅に増え、年々重くなっている」と県生活交通課の松田香樹主幹。09年度実績2.1億円は、人件費や物価上昇により25年度は5.7億円を見込む。

 市町村は3割負担で、26年度までは計年6300万円を上限とする。市町村の要望で超過分は県が負担する取り決めだ。県の割合は本来の7割を既に超えた。今後も増加が予想されるため、本年度中に協議を始める。

 鉄道に詳しい専門職員の確保や自然災害対策も必要だ。松田主幹は「関係者が力を合わせ、只見線という財産を次世代につなぐのが使命」。

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 復旧協議時に只見町長だった目黒吉久さん(73)は「鉄路を諦めることは、将来の活性化を捨てるようなものと考えていた」と振り返る。当初、沿線自治体間でも温度差があった。鉄道自体が会津の観光資源であり地域に不可欠だと訴え、数字だけでは測れない意義を説いた。

 沿線では不通期間中から今も、只見線を生かそうと官民の取り組みが活発だ。絶景にほれ込んだ金山町の写真家は交流サイト(SNS)や展示会で国内外に魅力を発信する。小学生以上の若者世代が活用案を発表するイベントも盛り上がるという。一方、金山、只見両町は宿泊・飲食施設や駅からの2次交通が十分でないため、せっかくの再開効果をどう広げるかが共通の課題になっている。

 「幅広い年齢層が地域の在り方に関心を持つようになったのは大きな財産」と目黒さん。住民のまちづくり参加につながることを期待する。

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