富山湾沿いを走るJR氷見線のディーゼル車両。天気が良ければ立山連峰が望める=10月2日、富山県高岡市
国は地方鉄道の存廃議論の目安として、1キロ当たりの1日平均利用客数(輸送密度)が千人未満を示す。鹿児島県内では直近3年間でJR指宿枕崎線の指宿-枕崎や肥薩線の吉松-隼人など4路線の区間が該当する。鉄路の維持か、バス転換か。県外の他路線で先行する取り組みは、いずれ県内の参考になるかもしれない。全国の現場を訪ねた。(連載かごしま地域交通 第5部「鉄路の行方」⑥より)
富山県高岡市にあるJR氷見線(16.5キロ)の雨晴(あまはらし)駅。富山湾と立山連峰の景色を一望できるスポットとして有名な道の駅が近い。10月上旬の平日だったが、駅員は訪日客への対応に追われていた。高岡行きの列車は高校生の帰宅時間と重なり満杯だった。
市中心部の高岡駅を起点に南へ延びる城端(じょうはな)線(29.9キロ)と北側の氷見線。2022年度の1キロ当たりの1日平均利用客数(輸送密度)は2481人、2157人。すぐに廃線が危ぶまれる状況ではない中、沿線4市=氷見、高岡、砺波(となみ)、南砺(なんと)=と県は23年、将来への布石を打った。
29年にも両路線の経営を第三セクター「あいの風とやま鉄道」に引き継ぐことでJR西日本と合意したのだ。新幹線開業に伴う並行在来線の三セクを除き、JRが三セクに路線を移管するのは珍しいという。
両路線は22年度計10.8億円の赤字。今後も少子化で通学生の利用減が見込まれる。県城端線・氷見線再構築推進課の村田英久課長(50)は三セク移管を「利便性の向上を追求した結果」と説明する。
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北陸新幹線が停車するのは高岡駅の南、城端線に新設された新高岡駅。氷見線から新幹線を利用する際は高岡駅で乗り換えないといけない。煩雑さを解消する直通運転を求める声が強くなり、開業前から県と4市はJR西と検討を始めた。「観光客を呼び込むための快適な移動手段が必要だった」と高岡市総合交通課の山村紘次課長(47)。
15年の開業後もなかなか事業化に至らない。全国に鉄道網を有した国鉄がルーツのJR西日本に対し、「一企業だけがローカル線に投資するのは限界がある」と考え始める自治体が出てきた。
あいの風とやま鉄道は、新幹線開業で並行在来線となった北陸線を運行しており、高岡駅は拠点駅の一つ。JRの氷見・城端線直通化のための駅改修や、接続しやすいダイヤ改善を目指す上で、とやま鉄道が一体的に担う方が融通が利くという面があった。
県と沿線自治体が受け皿になっている三セクだけに地域で支える態勢も整っている。
県の村田課長は「(両路線が)JR西のままでも、利便性向上のために地元のとやま鉄道が協力するのは不可欠。三セク化は自然な流れだった」
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33年度までの10年間計画によると、25年度から全21駅で交通IC化に対応し、29年ごろの経営移管をめどに新型車両34両を導入する。運行本数も1.5倍に増やし、31年度から直通化のための駅改修に着手。利用者を3割増やし、最終年度の年間赤字を7億円まで縮小させる見込みだ。
総事業費は342億円。4分の1の86億円はJR西の拠出金(150億円)から、残りを国、県、4市が負担する。移管後の赤字を補塡する基金(36億円)もつくり、県・4市とJRで折半する。
地方鉄道は人口減やマイカー普及で苦境が続く。全15市町村に駅があり「鉄道王国」を自負する富山県。「ここには地元が鉄道経営に投資・参画し、好循環を目指す意識が根底にある」。村田課長の言葉に悲壮感はなかった。