「天空の駅」と呼ばれ、休日はトロッコ列車が走る旧三江線の宇都井駅=9月30日、島根県邑南町
国は地方鉄道の存廃議論の目安として、1キロ当たりの1日平均利用客数(輸送密度)が千人未満を示す。鹿児島県内では直近3年間でJR指宿枕崎線の指宿-枕崎や肥薩線の吉松-隼人など4路線の区間が該当する。鉄路の維持か、バス転換か。県外の他路線で先行する取り組みは、いずれ県内の参考になるかもしれない。全国の現場を訪ねた。(連載かごしま地域交通 第5部「鉄路の行方」⑦より)
2018年3月末で運行を終えたJR三江線。広島県北東の三次(みよし)市と島根県西部の江津(ごうつ)市を結び、2県6市町で計108キロにも及ぶ。国土交通省の統計では、廃線距離は本州のJRで最長だ。
10年度の1キロ当たりの1日平均利用者数(輸送密度)は66人で、20年前に比べ8割以上減っていた。自治体とJR西日本は5年計画で運賃補助やラッピング列車といった利用促進に取り組んだものの、最終15年度の輸送密度は58人と改善できなかった。JR西は16年9月、「どのような形態でも鉄道事業はしない」との意向を表明し、国に廃止届を出した。
自治体は廃線の代替手段として14路線のバスへ転換。利用状況に合わせて現在10路線に再編した。島根県によると、年2億円ほどの負担が自治体に発生している。島根県川本町の担当者は「委託先のバス事業者からは運転手不足による減便を打診されている。路線を維持していけるだろうか」と不安を漏らした。
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鉄道施設の跡地は、沿線自治体が希望すればJR西から譲渡を受けられる。
島根県邑南(おおなん)町にある宇都井、口羽、作木口の3駅。町が施設を取得し、鉄道公園に整備した。地元のNPO法人「江の川鐵道」が指定管理者となり運営している。
休日は3駅にトロッコ列車が走る。24年度は計60日間運行し、約1600人が乗車した。高さ20メートルの高架橋上に位置し「天空の駅」と呼ばれる宇都井駅は、その構造自体を生かして秋にはイルミネーションを点灯する。「不思議な話だが、廃線前よりも県外客が増えたと感じる」と代表の日高弘之さん(84)。
列車が走らなくなった直後、日高さんは鉄道ファン仲間とNPOをつくり、町に駅の取得を訴えてきた。「鉄道施設の撤去は多額の費用がかかるため、廃止されてもすぐにはなくならない。それなら観光資源として磨くべきだ」
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JR西によると、この7年で譲渡した線路の延長は約15キロで、全体の1割ほどだ。
代替バスの削減が心配される川本町を散策すると、住宅地や道路沿いの線路に立てられた「立ち入り禁止」の看板は、長く伸びた草木に覆われていた。
「夜になるとゴソゴソと音がする」。地元の無職渡邊正直さん(74)は、持ち家近くの線路がイノシシやサルの隠れ家になっているとこぼす。「町に掛け合ってもすぐに除草はされない。住民の畑も荒らされている」
隣町の美郷町は23年、JR西と協定を結んだ。年に2回、JRの費用負担で住民が除草や伐採をする。町の担当者は「景観がきれいに維持され、住民の安心感にもつながっている。でも本来はJRにやってほしい」と話す。
沿線市町の職員は指摘する。「自治体とJRの間で代替輸送を巡る議論こそ活発だったが、跡地管理の話は深まらなかった。中山間地の廃線にはこういった問題が付きまとうことを覚えておいた方がいい」
=おわり=