外来魚駆除を目的とした釣り大会=8月、薩摩川内市の藺牟田池
鹿児島県薩摩川内市祁答院の藺牟田池は8日、ラムサール条約に登録されて20年を迎えた。国内希少野生動植物種「ベッコウトンボ」が生息する貴重な環境が残る一方、生息に欠かせない植物群落の減少やトンボを捕食する外来魚からの保全が課題となっている。市は環境保全計画を作ったり、外来魚の釣り大会を開いたり、貴重な自然を次世代へつなぐ取り組みを進めている。
藺牟田池はベッコウトンボの生息地保護区。成育には、ヨシやマコモといった植物から成る天然記念物の泥炭地「泥炭形成植物群落」が重要になる。池の西側に広がっているが、面積は年々減っている。
市の生態系調査によると、昨年の植物群落の面積は、生息地保護区に指定された1996年の59.7%にまで減った。市は原因について、2009年に渇水した経験から農業用水を十分に確保するため貯水位を上げた結果、植物が根腐れしたと分析。昨年5月に「環境保全基本計画」を策定し適正水位を定め、今年9月にリアルタイムで観測できる水位計を設置した。水位に応じ、農業関係者に放水などの協力を求める。
池の生態系には、オオクチバスやブルーギルといった外来魚も大きな影響を及ぼす。市は、釣った外来魚の再放流を禁じる条例を06年に施行したり、回収ボックスを設置したりしてきたほか、15年度から釣り大会を開催。毎年5~10キロが駆除されている。
湖畔の生態系保存資料館アクアイムは、釣り上げた外来魚を買い取っている。大迫良行館長(67)は「昨年の買い取り量は十数年前の半分ほどに減り、大きさも小さくなった」と効果を感じている。
市環境課によると、ベッコウトンボの1日当たりの最大確認数は24年度561匹で、ここ10年はおおむね500~700匹で推移する。渇水前の2252匹(06年度)には及ばないものの、10~12年度の8~26匹から回復した。
橋口堅(かたし)総括主任(62)は「地域住民らによる草木の管理や釣りといった活動の積み重ねで、安定的に生息する環境が徐々に戻ってきた。植物群落の面積や草木管理の担い手をどう増やすか知恵を絞り、貴重な自然環境を守っていく」と話した。
■用語解説:ラムサール条約
正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」。多様な生物のすみかである水田、干潟などの保全と賢明な利用を目的にイランのラムサールで1971年に採択され75年発効、日本は80年加盟した。鹿児島県内では2005年11月にベッコウトンボ生息地の藺牟田池(薩摩川内市)と、アカウミガメ産卵地の永田浜(屋久島町)、21年11月に世界最大のナベヅル・マナヅルの越冬地(出水市)が登録された。