現代の名工に選ばれた姶良市の和服仕立て・修理職人の井前節子さん
■かお・現代の名工に選ばれた鹿児島県姶良市の和服仕立て・修理職人井前 節子(いまえ・せつこ)さん
卓越した技術で伝統的な和服文化を継承しつつ独自の工夫で和裁の普及に貢献したことが評価された。和服の仕立てを始めて48年。「表彰されるのは面はゆいけれど、自分を褒めてあげたいのは、とにかくお客さん最優先で、愚直に仕事をやってきたことかな」とほほ笑む。
日本舞踊の舞台衣装や歌舞伎の早替わり用の引き抜き衣装を得意とする。薄い布地2枚を合わせた和服の縫い代が外に透けないようにする方法も編み出した。「着物の仕立ての組合などで、いい先生や先輩に恵まれた。私はおっちょこちょいだけど、たくさん失敗した分、血や肉になったと思う」
反物から着物に仕立てる技術が高まるにつれ、体形の変化に合わせる直し(修理)の仕事も増えていった。祖母や母親から受け継いだ着物を成人式や結婚式で着るための依頼もある。「人生の節目にかかわれるのは喜びであり誇り」と話す。
鹿児島市(旧松元町)出身。結婚を機に和裁に打ち込み、2人の子どもを育てた。夫と死別し失意の時期もあったが、歌舞伎の衣装を勧められ再び前を向くきっかけになったという。
「とにかく今は依頼が多くて365日仕事をしている」。鹿児島女子高校で非常勤講師を務めるなど後進の指導も精力的に取り組む。息抜きは姶良市の家にしょっちゅう来る野良猫と遊ぶこと。能が趣味で月2回、仲間と稽古に励み、立ち居振る舞いに気品が漂う。円熟のナレーターのようなつややかな声も耳に残る75歳。