さつま町内で建設ラッシュが続く民間の賃貸共同住宅=さつま町船木
鹿児島県さつま町中心部で、民間による賃貸共同住宅の建設が相次いでいる。町内への移住定住を促そうと、町が土地取得や建物建設に対し、最大2000万円に上る補助を出しているのが理由。北薩地区で同様の事業を実施している自治体はない。入居率も高く、関係者は「町内への居住の呼び水になっている」と好意的に受け止める。
さつま町船木の国道267号沿いに昨年8月、賃貸住宅3棟が完成した。近くにスーパーや飲食店がある町中心部で、立地は申し分ない。単身向けの14戸は全て埋まっている。
大家は薩摩川内市の建築会社社員、染川将司さん(35)。同町に深い縁はないが、「手厚い支援が受けられることを知り、町の補助金を活用して用地の取得から始めた」と話す。
町の人口が急激に減少していることは承知しているが、若者向けの新築住宅が少ないとも聞いていた。「部屋は直ちに埋まり、今のところ順調」と手応えを口にする。
■入居率93%
町制20年を迎えた町の人口は、合併当時約2万6000人だったが、現在は約1万8000人に落ち込む。人口減対策は喫緊の課題で、町は2023年度から3年間の「民間賃貸住宅建設等促進事業補助金」を始めた。
要件を満たすと、賃貸住宅の建設に1戸当たり100万円(上限1500万円)、リフォームは経費の2分の1(同500万円)を補助。住宅用地取得費の4割補助(同500万円)も併用できる。
町によると、5月末までの補助金の事前承認は14件(新築12件、リフォーム2件)で、単身向けを中心に計159戸に上る。このうち入居が始まっているのは新築7件で、入居率は93.6%という高さ。年代別では20、30代が最も多い。入居した73戸93人のうち、町外からの転入は6割以上の49戸57人だった。
■若者好み
町内で新築住宅の建設などに携わる「ユウダイホーム」の担当者は、これまで町内は古いアパートが多く、若者が減る一因になっていたと指摘。「若者好みの新築ならば需要は十分ある」と話す。
若い世代には省エネや騒音対策、災害に強い構造が好まれる。ネット環境や防犯目的のモニターホンなども欠かせないという。
不動産関係者らによると、防衛省が町内で予定する弾薬庫(火薬庫)建設を見据え、作業員らの需要に期待を寄せる声が一部に聞かれる。一方、既存物件の大家の中には、新築への住み替えが進めば入居率が下がると、気をもむ人もいる。
補助事業は本年度が最終年度。町は「一定の成果はあった」としつつ、住宅改修に限ると、居住者がいるため、事業を進めにくかった状況も把握。「改修への補助は、来年度以降も続ける方向で検討を進めている」とした。