師岡正雄アナ
2026年に放送開始から60年を迎える“ラジオ野球中継の雄”『ニッポン放送ショウアップナイター』。「聴くプロ野球中継」を長年にわたってけん引してきた同番組の真髄に迫るため、ORICON NEWSでは今シーズン、実況アナウンサーへのリレーインタビューを敢行する。第5回は、ドーハの悲劇、ジョホールバルの歓喜、2度のWBC優勝実況など「スポーツ名場面のラジオ実況にはこの人あり」ともいえる、師岡正雄アナ(65)。
【写真】マイク前で…笑顔を浮かべる師岡正雄アナ
■キャリアのスタートは福岡 Jリーグ開幕実況で切り開いたサッカーの“ラジオ実況”
――東京都出身の師岡さんですが、アナウンサーとしてのキャリアは、1983年、九州朝日放送(KBC)入社からのスタートでした。
僕らアナウンサーは「最初に合格した局に行け」という教えがあるのですが、九州朝日放送に内定をいただいて、ラテ(ラジオ・テレビ)兼営局でもあるということで入ることになりました。基本的にスポーツは好きでしたし、スポーツの中継をやりたいっていう気持ちはありましたが、僕が入った当時、福岡にはプロ野球の球団もなかったですし。だから、まさか福岡にプロ野球の球団が来るとは思わなかったですよね。
――1989年にホークスがやってきましたね。そのタイミングで、スポーツ担当になったのでしょうか?
当時、すでにスポーツ担当専門のアナウンサーが数人いて、それとは別にスポーツ中継を担当することはあるけども、専門じゃないよっていうのがあって、僕は後者だったんです。とはいえ、スポーツの仕事が8割ぐらいになっていて。そんな中、学生時代から『ニッポン放送 ショウアップナイター』を聴いていた事もあり、野球の実況をやりたいという気持ちが次第に強くなり、93年にニッポン放送に入ることになりました。
――そこで、ついにプロ野球の実況をメインで…というタイミングで、ニッポン放送がJリーグのラジオ独占中継権を獲得し、Jリーグのレギュラー中継がスタート。師岡さんは、Jリーグの実況担当となったそうですね。
ニッポン放送に入った時には、100%野球だろうなという気持ちでいたのですが、サッカーをメインでやってくれと。僕はサッカーも中継も福岡時代に担当していましたので、ニッポン放送らしく、ラジオのスポーツ中継文化としての歴史の幕開けに立ち会えるということで、意気込みはめちゃくちゃありました。
――おっしゃる通り、Jリーグ元年に、ラジオでサッカー実況を聴くという経験も、リスナーにとっては初めてのことだったと思います。伝え手として、どのような工夫をされていたのでしょう?
『ニッポン放送ショウアップナイター』を聴いてくれている人達は、だいたいバックネット裏に目線があると思うんです。だから、ラジオ中継でも「ショートの左」だと言ったら、みなさんの中では三遊間に浮かぶと思うんです。でも、サッカーにはそのイメージがないですよね。だから、まず僕らは、ラジオを聴いていて、スタジアムが頭に浮かぶような中継にしようと。では、どこに目線をおいてしゃべるのか。メインスタンド側に目線をおいて、そこから見て、右から左に攻める…というような表現にして伝えました。あとは,奥行きの表現も必要ですよね。それはメインスタンド側、バックスタンド側というような表現をして「あなたのラジオ、右から左に攻めるのがマリノス、左から右に攻めるのがヴェルディです」というようなことを、何分かに1回繰り返して、意識付けをしてもらうという取り組みをやっていました。
――そんな中、93年10月28日に行われたサッカー日本代表のイラク戦、通称「ドーハの悲劇」のラジオ実況も担当されました。初のワールドカップ出場に王手をかけた試合で、ロスタイムギリギリに同点に追いつかれるという、ショッキングな展開でした。
僕も実況をしながら、コーナーキックひとつ防げば、もう行くもんだと思っていましたので、ワールドカップ出場が決まった時の心の準備、言葉の準備などをしていたら、それが泡となってしまう。やはり、呆然としました。代表チームの取材もずっとしていたから、思い入れもあるじゃないですか。だから、選手たちと同じような気持ちになっちゃって、あの時数秒間しゃべってなかったですよ。言葉が出てこなかった。そんなドーハでした。
――そんなドーハの悲劇を経験してから4年、今度は「ジョホールバルの歓喜」で、日本代表のワールドカップ出場決定の瞬間を実況することになりました。
ドーハの悲劇と反対に、感無量の瞬間でした。その2つの現場にいることができたのは、貴重な経験でした。
■野球は将棋やチェスと同じ?実況で意識したテンポ感と強弱 WBCで叫んだ「グラシアスメヒコ!」→まさかの後日談
――フランスでのワールドカップが終わった後、本格的に『ニッポン放送ショウアップナイター』の実況を担当されることになります。
上司から相談を受けて、野球に軸足を持っていってくれということで、了解しました。サッカーと野球は、やはりしゃべりのテンポが大きく違いましたね。『ニッポン放送ショウアップナイター』で野球に軸足をおいた直後は、サッカーの実況のテンポになってしまっていたので、先輩たちからは間のとり方と、強弱を意識するようにと教えてもらいました。先輩からは「サッカー中継はテレビゲームだ。常に動いている。一方、野球は将棋やチェスだ。こうしたら相手どう出るか、そこを考える、考えさせるものだ」という言葉を授かりました。
――『ニッポン放送ショウアップナイター』は、数々の名実況を生み出していますが、師岡さんの中で印象に残っているものはどういったものでしょう?
山田透さんの独特な物の見方、観察の仕方は勉強になっていますし、松本秀夫くんはよく取材して、それを実況に生かしていくというのも印象に残っています。また、お亡くなりになりましたが、深山計さんのテンポ感も大変好きでした。
――スポーツの名場面に師岡さんありという意味では、2度のWBC優勝実況も担当されています。
第1回大会も、もともと、僕が行くとは思わなかったですから(笑)。忘れられないことがあったのは第2ラウンド。日本は1勝2敗だったんですけど、アメリカ対メキシコで、アメリカが負けたら、失点率で日本がいけるかもしれないということで、急きょニッポン放送で「アメリカ対メキシコ」の試合の途中から中継したんですよ。そうしたら、まさかまさかメキシコが勝って、日本が第2ラウンド進出を決めたんですね。その時に、ディレクターがスペイン語で「ありがとう」を意味する「グラシアス」と「メキシコ」を意味する「メヒコ」をかけあわせた「グラシアスメヒコ」というワードをすっと、僕に見せてきて、僕は声高らかに「グラシアスメヒコ!」と叫んで、さらに調子に乗って「みなさん、今夜はタコスを食べましょう」と付け加えたんです(笑)。これには後日談があって、そんな実況を終えて、日本に帰国したら、原辰徳さんから「あれは、よくしゃべったね!」と言っていただいたんです(笑)。
■関根潤三さんの金言「野球というのは娯楽だよ」 若手アナに賛辞と期待
――そんな原さんが監督を務めた第2回のWBCでも実況を担当されました。
これもまさかで、1回行っているから、もう僕じゃないだろうと思っていたんです(笑)。そうしたら「行って来い」ということで、行かせていただいて、また優勝。
――『ニッポン放送ショウアップナイター』の実況で、師岡さんが印象に残っている場面はありますか?
2013年に楽天が日本一になった時ですかね。2011年に東日本大震災があって、そこから復興ということで、やってきて。星野仙一監督のもと、田中将大投手が24勝0敗というすごい数字を残したんですよね。それで迎えた日本シリーズ、3勝3敗で迎えた第7戦の実況を担当したのですが、やはり最後のシーンがインパクト強かったですね。だって、前日に160球を投げたマー君が9回に出てきたんですから。その時、スタンド全員が拍手喝采、それはやっぱりいまだに印象深いものでした。
――ノーヒットノーラン実況、セ・リーグの優勝決定ゲームの実況担当アナウンサーをリスナーが予想する「持ってるアナウンサーは誰だクイズ」企画の初代など、まさにショウアップされた場面での実況を担当されていますが、師岡さんが心がけていることはどんなことでしょう?
関根潤三さんから昔「野球というのは娯楽だよ。楽しくなきゃダメなんだ。だから中継も楽しくやりなさい」と言われたことがあるんです。それを守って、楽しくお伝えする。素晴らしい解説者ばかりなので、楽しくやってくれる。その楽しさから、少し笑いを醸し出せるように…ということも意識しながら実況しています。もちろん得点、イニングをきちんと伝えるのは当たり前。あとは、チャンスやピンチの時、聴いている人たちが聞き耳を立てるような、腰を浮かせるような状況説明をして、野手はどんな守りをしているか、初球なんでくるのか。解説者の方がピッチャー・キャッチャー出身だったら、バッテリー中心のしゃべりになりますし、野手出身だったらバッター中心に。それを1球1球積み重ねていくわけですよね。そこがドラマだと思うんです。
リスナーの皆さんが一生懸命聴いてくださるショウアップのドラマだと思う…そういうような話の組み立て、解説者の方とのしゃべり方をやっぱり意識しますね。あと、僅差のゲームになると、中盤以降、何がきっかけになるかわからないでしょう。その中で気をつけなきゃいけないのは、やっぱりホームラン、それからフォアボール、そしてエラー。こういうのも見落とさないようにしゃべる。やっぱり野球って、勢いが来るかどうか、勢いを渡さないかどうかっていう、駆け引きのスポーツだと思うから、そこも中継の中で大きな流れになってきますから、そういうのを自分に言い聞かせながら「どうだ、ここは遊んでいいぞ」とか、そんなことを四六時中考えながらやっています。
――『ニッポン放送ショウアップナイター』では、若手アナウンサーのみなさまも活躍されていますが、師岡さんからはどのように見えていますか?
今の若い子たちはすばらしい、すごいと思います。もちろん緊張してるんだろうけど、その緊張感を自分の中で消化して、表には出さない。「本当に緊張してんの?」って言いたくなるほど素晴らしいです。基本をよく守ってくれていて、そこら辺はまったく問題ないから、あとはハンドルと同じで、いかに「遊びの部分」を持てるかだと思うんですよね。遊びの部分がないと、ラジオの中継ってやっぱり面白くない。それはやっぱり、解説者の方との付き合いの経験が生きると思うので、それが経験値として出てくれば、遊びの部分も広がってくると思うし、なお一層実況中継の中にメリハリや深み、厚みが出てくると思っています。
――きょう23日、ニッポン放送は「ドラフト会議」を生中継します。
阪神はドラフト1位選手がみんな活躍していますよね。だから阪神が今年ドラフト1位で誰を取るのかとても楽しみですし、巨人も誰を取るのか、今後のチームの展望も含めて楽しみです。
【師岡正雄】
1960年2月15日生まれ、東京都出身。ドーハの悲劇、ジョホールバルの歓喜、2度のWBC優勝実況などエポックメイキングなシーンを多数実況。豊かな声量と明朗な音色で、エキサイティングな実況が売り。ゴルフ、ウォーキング、酒をこよなく愛する。
<ニッポン放送ショウアップナイタースペシャル>
25日からの日本シリーズを、ニッポン放送では日本一決定の瞬間まで全試合実況生中継。25日、10月26日の中継では「現金最大5万円」が当たるキャンペーンに加えて、おいしい「白菜」もプレゼント。25日の第1戦は解説:江本孟紀、実況:煙山光紀、26日の第2戦は解説:谷繁元信、実況:松本秀夫という布陣で届ける。
師岡正雄アナウンサーは、10月30日(木)の阪神甲子園球場の第5戦を解説・山本昌とのコンビで実況担当の予定。
さらに、23日に行われるプロ野球ファン大注目の「ドラフト会議」を、今年もラジオ独占生中継。第1巡目指名の模様を『辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!』内で、午後4時45分頃よりドラフト会議会場から生中継する。実況は、ニッポン放送の煙山光紀アナウンサーが担当し、ゲストとしてニッポン放送のドラフト中継ではおなじみの野球ライター・菊地高弘氏が今年も登場する。