当院は、長年にわたって南さつま市を中心とした南薩地域の精神科医療を担っています。現在は213床で、精神疾患や認知症、身体合併症などに対応しています。
私は福岡県出身で、鹿児島で中学、高校時代を過ごしました。卒業後は福岡県の大学病院などに勤務しましたが、お世話になった鹿児島県の医療に貢献したいと思い、縁があって今年4月に院長として赴任しました。
今、心がけているのは「断らない、あたたかい医療」です。大学病院時代、患者さまを待たせてしまうことが多く、外来初診が半年後になることもありました。断らず、待たせず、時間の許す限りあたたかい適切な医療対応をすることを目指しています。
精神科医療の本質は「人が人を治療する」ことだと思っています。目の前の患者さまがどんな背景を持ち、何に困り、今後どう生きていきたいのかを丁寧に聞き取り、本人のペースで希望に寄り添って、一緒に考えていくという姿勢を大切にしています。患者さまの声を否定せず、その背景にある思いや事情を理解することを大切にしています。
鹿児島には、相手を立てて自分のことは後回しにするといった他者配慮的で人間関係を大切にする文化が息づいています。そういった気質は、精神科医療においても重要な背景となります。他者を配慮するあまり、言いたいことを表現せず、自責的になり苦しむ傾向が強い印象です。そうした“声にならない声”を拾い上げるためにも、私たちは「いつでも受け入れる」「安心して相談できる」「あたたかく支える」存在でありたいと思っています。
精神科医療の現場で求められる人材は、医療知識やスキルも大事ですが、それ以上に「人の痛みに敏感であること」が重要です。私の経験上、大きな不幸でなくても、小さなつまずきや挫折を経験した人の方が、患者さまに対して深い共感を持つことができると思います。いわゆる“完璧な人”よりも、迷いや葛藤を知っている人の方が、この仕事に向いていると思います。
当院では、立場や職種を超えて話し合える風通しの良さを大事にしています。上からの指示を待つのではなく、現場で起きていることを共有し、一緒に考え、一緒に改善していけるチームづくりを目指しています。医師も看護師も、事務スタッフも、みんなで病院を支えているという意識を持っています。「共に生きる医療」「その人を支える医療」を大切にできる仲間と出会えることを楽しみにしています。