〈鹿児島 人物語〉知覧茶農家の“伴走者”

移住3年、ブランド向上に尽力  川口塔子さん(30)南九州市頴娃 
(2020/05/22 21:30)
 4月上旬、一番茶の摘み取りを間近に控えた南九州市の茶畑で、「知覧茶新茶体感プログラム」が開かれた。鮮やかな緑が広がる空間に消費者を招いた。繁忙期の実施は初めて。「茶畑が一番きれいな時期を見てほしい」と企画した。

 手摘みや茶の入れ方、主要品種の飲み比べ-。参加者から「おいしい」という声が上がる様子を、生産者とうれしそうに見守る。

 故郷・鹿児島のお茶に魅せられ、東京から日本一の産地に移住して3年。「tottoco(トットコ)」の屋号で、知覧茶の生産者を中心にブランド力向上や人材育成などのコンサルタントを手掛ける。

 学生時代から、ビジネスの手法で地域課題の解決を目指す「社会起業家」にあこがれた。大学在学中に東日本大震災の被災地支援に参加、卒業後はベンチャー企業で学生向け就業体験の企画運営に携わった。

 東京のNPO法人に転職し、鹿児島県専属の移住・交流相談員になったことが転機になった。母親の影響で元々お茶はよく飲んでいたが、就農支援で仕事としての茶業を考えるように。産地の南九州市を何度も訪れるうち、「元気な生産者と一緒に仕事がしたくなった」と振り返る。

 2017年春、地域おこし協力隊員として移り住んだ。移住・定住促進を担当する傍ら、移動式日本茶カフェ、飲み比べワークショップなど茶に関するイベントも積極的に開いた。

 その秋だった。左ひざ裏に悪性軟部腫瘍というがんが見つかった。抗がん剤と陽子線の治療は10カ月に及んだ。

 「大好きなお茶もおいしいと感じられない」日々。それでも体調が回復すると、急須に手が伸びた。近くの患者にも振る舞うと、表情が和らぎ、会話が弾んだ。「人との縁を結ぶお茶の魅力を再認識した」

 18年7月に復帰。隊員の任期を1年前倒し、19年4月に独立した。現在は、首都圏に知覧茶を売り込むイベントなど幅広く活動。荒茶生産が中心で、首都圏ではまだまだ低い知名度を上げたいと意気込む。

 闘病を経て、「生かされた」と感じている。「地域の人々のため、一緒に目の前の課題に取り組む伴走者でありたい」と笑顔を見せた。

 かわぐち・とうこ 鹿児島市出身。法政大学卒。茶による地域振興を目的とした団体「WACHAEN」でも活動する。