2021/07/22 22:00

鹿児島大雨 目前だった3度目の緊急放流 15年前の豪雨後、貯水量増強が生きた鶴田ダム

大雨で水位が上がった川内川を警戒する消防団=10日午前11時45分、さつま町の宮之城橋
大雨で水位が上がった川内川を警戒する消防団=10日午前11時45分、さつま町の宮之城橋
 川内川流域で浸水被害が相次いだ2006年の県北部豪雨災害から22日、15年を迎えた。災害後は国の大規模な治水対策が進んだ一方、地球温暖化により全国で記録的な大雨に見舞われる回数が増えている。専門家は「今後は住民の早期の避難がより重要になってくる」と防災意識の重要性を指摘する。

 川内川流域は9日夜から10日にかけて記録的な豪雨に見舞われた。さつま町の鶴田ダムへの流入量は10日午前8時30分、県北部豪雨の4043立方メートルを上回る過去最大の毎秒4107立方メートルに達した。1時間当たりで東京ドーム約12杯分が流れ込む計算だ。

 鶴田ダム管理所は「このままではダムが満杯になる恐れがある」として午前10時半、緊急放流(異常洪水時防災操作)を「実施する可能性がある」と発表。結果的に放流は見送られたが、流域の住民に一時緊張が走った。

 緊急放流は流入量とほぼ同じ量を放流する緊急避難的な措置。これまで実施された1972年と2006年はいずれも川が氾濫した。06年は流域全体で2347戸が浸水した。

 さつま町川原町公民会の平田貢会長(66)は、今月10日午前5時すぎに川内川の様子を見ながら、自宅が床上浸水した06年の災害の再来が頭をよぎったという。「緊急放流されていたら、もっと大きな被害が出ていたはず」と話す。

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 県北部豪雨を受けて、鶴田ダムは総事業費711億円をかけ整備され、豪雨時にためられる水の量は従来の1.3倍となる9800万立方メートルに増えた。増加分は東京ドーム約19杯分に当たる。

 河川激甚災害対策特別緊急事業(激特)では、総額375億円かけて37カ所を整備。川幅の拡張や分水路の新設など「治水対策の展示場」と呼ばれた。

 住民の防災意識も高まった。06年に堤防決壊の危機に直面した薩摩川内市の斧渕地区コミュニティ協議会は、翌年に「川内川水害予防を考える会」を設立。防災訓練とともに堤防強化や住宅地のかさ上げの要望を続ける。

 19年4月に開校した東郷学園義務教育学校は、同会の要請を踏まえて高台に建設。今年7月10日の大雨では住民約150人が避難所として身を寄せた。今年3月まで協議会長を務めた諏訪六雄さん(77)は「豪雨後に移住してきた人とも危機意識を共有し、安全な地域づくりを進めたい」と力を込める。

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 対策が進む一方、全国で地球温暖化の影響による記録的な豪雨が増えている。九州大学の小松利光名誉教授(73)=河川工学=は「線状降水帯が大型化、広域化しており、川内川の大規模氾濫のリスクは高まっている」と指摘する。今回の豪雨でも流域に線状降水帯が発生した。

 国土交通省によると、9日から10日の大雨では川内川流域25カ所のうち15カ所で12時間雨量が県北部豪雨を上回った。21日現在、川内川支流の山野川(伊佐市)や山田川(薩摩川内市)など9河川の氾濫が確認されている。

 小松名誉教授は「ハード面による減災には限界があり、整備が進んでいる川内川でもいつ大規模氾濫が起こってもおかしくない」と説明。「住民が気候変動による被災リスクの高まりを認識し、命を優先して避難することが欠かせなくなっている」と指摘した。