鹿児島の経済ニュース

世界のシェラトン進出で「従業員つなぎ止め」に必死 人手不足のホテル業界、待遇改善の動きも 鹿児島県内

 2023/05/14 11:00
(左から時計回りに)シェラトン鹿児島、城山ホテル鹿児島、鹿児島サンロイヤルホテル=12日、鹿児島市
(左から時計回りに)シェラトン鹿児島、城山ホテル鹿児島、鹿児島サンロイヤルホテル=12日、鹿児島市
 鹿児島市高麗町に16日オープンする外資系ホテル「シェラトン鹿児島」が県内のホテル業界に刺激を与えている。世界トップレベルの知名度を誇る大手チェーンに対抗し、地場の老舗ホテルはサービス強化や待遇改善に磨きをかける。新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行して人々の旅行熱が高まる中、集客や人材確保を巡る競争は激しくなりそうだ。

 シェラトンは世界で約8100のホテルを展開する米マリオット・インターナショナルの高級ブランドの一つ。約1億7000万人の会員を持つ。

 シェラトン鹿児島の伊牟田均社長(75)は「今あるパイを奪い合っても意味がない。鹿児島を知らない海外客に情報を発信し、来てもらうことで観光の底上げを図る。それが存在意義だ」と共栄を強調する。

 今年60周年を迎えた城山ホテル鹿児島(同市新照院町)の東清三郎社長(66)は「シェラトンがなければ鹿児島に泊まることのなかった客が訪れるようになる」とライバルを歓迎する。

 富裕層を取り込むため一泊100万円のスイートルームを新設するなど5年に及ぶ大規模改修を実施。今月にはレストラン・ホルトを都内の有名シェフが監修したイタリアンに刷新した。軽食を出すラウンジ・カサブランカではスペイン料理の提供を計画する。「すべてシェラトン対策。食事の多様性を発揮すれば優位に立てる」と話す。

 1972年の太陽国体に合わせて開業した鹿児島サンロイヤルホテル(同市与次郎1丁目)は、プロ野球ロッテやJリーグジュビロ磐田などキャンプを数多く受け入れてきた。下津昭則社長(59)は「ケータリングのノウハウや、選手に合わせた食事を提供できるのは他にない」と築いてきた強みに活路を見いだす。

 接客、調理と、おもてなしの最前線に立つ従業員はホテルの評価を左右する重要な役割を担う。育成は一朝一夕には進まない。宿泊業界は慢性的な人手不足にコロナ禍での離職も加わり、人材確保が課題となっている。

 県ホテル旅館生活衛生同業組合の淵村文一郎理事長(64)はインバウンド回復や今秋の鹿児島国体での宿泊客増加を見据え「人手不足はさらに深刻になるだろう」と予測する。

 県内のホテル従業員には、ステップアップを目指してシェラトンへ転職した人も。「移籍は止められないが、同僚を誘わないよう頼んでいる」とあるホテル関係者。城山ホテルは公休日を増やし、初任給を引き上げるなど、待遇面の格差が生まれないよう腐心する。かつては城山の社長を務めていたシェラトンの伊牟田社長は「引き抜きはしないが、来る者は拒まない」。

 “黒船”襲来で県内ホテル業界は変革期を迎えた。長年携わる関係者は「シェラトンは大きな起爆剤。切磋琢磨(せっさたくま)して誘客できればいい」と期待する。