日本記録を更新、東京パラリンピック参加標準記録を突破し喜ぶ坂元智香選手=2020年10月(西岡浩記撮影)
29日の東京パラリンピック・パワーリフティング79キロ級に、鹿児島市出身の坂元智香選手(39)が登場する。日本女子が同競技に出場するのは初めて。歴史に名を刻む薩摩おごじょは「とにかく笑顔で」いつもどおりの力を発揮するつもりだ。
大分県国東市のメディケアアライアンスあおぞら病院で働く傍ら、自ら車を運転し、片道45分かかる同県由布市のジムに通い、実力をつけてきた。
競技歴4年で日本記録を次々に塗り替える急成長の裏には、鹿児島市出身で同じ車いすユーザーの幸雄(ゆきお)さん(37)の存在がある。鹿児島国際大時代の後輩で、テニスサークルで知り合った。幸雄さんが大分で就職すると、坂元選手も後に続き、2012年に結婚した。
幸雄さんは大会で動画を撮影、他選手と比較するなどして助言する。坂元選手は「冷静で試合の見方が上手」と信頼を寄せる。夫が同行しない海外遠征の際は友人が作ってくれた「幸雄ちゃん人形」を持参し、心のよりどころとしている。
坂元選手は、事故で障害を負った10代の頃から、さまざまなスポーツに取り組んできた。一緒に車いす駅伝を走った、鹿児島県身体障害者福祉協会スポーツ情報課長の前田究さん(49)は「昔から勝ち気で負けず嫌い」と明かし、「車いすアスリートは太ももの筋肉が使えないため消費エネルギーが少なく減量が難しい。自己管理を徹底する精神力はすごい」と地道な努力を称賛する。
数年前には前田さん宅を夫婦で訪れ、遅くまで酒を酌み交わした。「彼女は飲んでも顔色一つ変えない酒豪」と笑い、「本番でも彼女らしい見せ場をつくってほしい」と期待する。
地元の鹿児島市郡山地域は、横断幕を設置するなど盛り上がっている。父親の有屋田俊之さん(66)は「パラリンピックに出場できるのは周りのサポートがあってこそ。本番も自分を信じて楽しんでほしい」と話した。