「これからは借金を減らせ。そうしないと…」 社員の前で叱ってくれた稲盛和夫さん。盛和塾で叩き込まれた教えがあるから今がある

2022/09/12 07:30
濵田雄一郎さん(左)の案内で蔵を見学する稲盛和夫さん=2005年5月(濵田酒造提供)
濵田雄一郎さん(左)の案内で蔵を見学する稲盛和夫さん=2005年5月(濵田酒造提供)
 京セラやKDDIを創業し、日本航空(JAL)再建に尽力した京セラ名誉会長の稲盛和夫さん=鹿児島市出身=が8月下旬、亡くなった。日本を代表する経済人になってからも鹿児島を愛し、支えた「経営の神様」。薫陶を受けた人々に、心に残る教えや思い出を聞く。

■濵田酒造社長 濵田雄一郎さん(68)

 稲盛さんがつくった経営塾「盛和塾鹿児島」が設立され、翌年の1991年に入れていただいた。講義後に焼酎を酌み交わしていたら、稲盛さんに「そろそろ西郷と言わず、大久保を見習っては」と言われた。

 「『敬天愛人』を掲げる人の言葉とは思えない」と詰め寄ると、「西郷の哲学を実践して意義がある。空哲学ではだめだ」と諭された。情の西郷隆盛、理の大久保利通と言われる。西郷の哲学を実践するには大久保を取り入れる必要がある。そう厳しく指導された。

 骨身に染み、実践すると仕事がうまく回り出した。「伝統」「革新」「継承」をコンセプトに「伝兵衛蔵」「傳藏院蔵」「金山蔵」が完成したのはそれから十数年後。視察に来てくれた稲盛さんに「これからは借金を減らせ。そうしないと長期展望は開けない」と言われた。

 その翌年の1月、伝兵衛蔵の1棟が焼失した。ニュースを知った稲盛さんから「これも天の啓示。しっかりせんと」と電話をいただいた。猛烈に奮い立ち、再建策の手配を終えた頃、稲盛さんが見舞いに来た。褒めてもらおうと幹部を集めて出迎え、計画を説明した。すると「あー、やっぱり」とがっくりされた。

 銀行にお金を借りて蔵を建て直す計画だったが、「経営戦略の拠点はどこだ。(主力工場の)傳藏院蔵だろう。そこの借金を減らすことが最優先だ」と社員の前で叱られた。確かに伝兵衛蔵1棟がなくても、ほかでやれる。それまでの経営で借金に頼る体質が染みついていたのだろう。

 私は再建計画を見直した。借金で資金繰りができるのは当たり前。稼いだ金を投資に回す循環をつくれないと経営者と言えない。大切な経営哲学を教えていただいた。本当に感謝している。

(連載「故郷への置き土産 私の稲盛和夫伝」より)

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