かつてドル箱航路だった桜島フェリー、運賃値上げ後1カ月その効果は? 車両8%減、旅客は微増 収益は…

2024/09/09 17:00
鹿児島市街地と桜島をつなぐ桜島フェリー=鹿児島市の鹿児島港
鹿児島市街地と桜島をつなぐ桜島フェリー=鹿児島市の鹿児島港
 鹿児島市が運営する桜島フェリーで長年、利用者減少による経営難が続いている。7月には、サービスの大幅低下が余儀なくされる経営健全化団体への転落を避けるため、ここ10年で3度目となる値上げに踏み切った。桜島・大隅地区と県都をつなぐ生活、観光、物流の動脈でありながら、火山噴火など災害時の避難の役割も担う24時間運航の航路は、高速道路延伸や人口減少などの逆風を浴び、大きな岐路に立たされている。

 7月1日からの新運賃は、旅客が大人で250円(50円増)、車両が普通自動車(4~5メートル未満)が2350円(400円増)など全体で2割近い値上げとなった。回数券は割引率を以前よりも上げるなど、利用頻度の高い地域住民らへの負担を減らす仕組みもつくっている。

■収支改善へ一歩

 新運賃の導入1カ月の輸送実績(速報値)について市船舶局は、現金とキャッシュレス支払い利用分のみを明らかにしている。旅客は前年同月と比べ4%増の14万6492人となった一方で、車両は8.7%にあたる7339台が減り、7万7240台と伸び悩んだ。ただ「全体の運航収益は増えている」(市船舶局)としており、収支改善に向け一歩踏み出した格好だ。

 定期や回数券の利用者を含まない旅客は、主に観光客や団体客とされ、7月の旅客数全体の約7割を占めた。船舶局の渡辺真一郎次長は「観光面では値上げの影響はほぼみられなかった」と話す。減少した車両を見ても、外国人観光客などクルーズ船客と想定されるバスが増えている。ただトラックは減っており、今後どれほどの影響があるかは見通せていない。

■車両輸送61万台減

 かつては、赤字になることがほとんどない“ドル箱航路”だった桜島フェリー。旧桜島町が運営していた時代は町民割り引きなどもあった。本格的に赤字経営に陥ったのは2015年度からだ。14年度に東九州自動車道が鹿屋まで延伸し、15年度の桜島噴火警戒レベル4への引き上げなどを背景に旅客、車両とも利用が減少した。19年度以降は新型コロナウイルス禍で再び大きく落ち込んだ。

 コロナ下の20年度の輸送量は旅客191万8000人、車両91万3000台。13年度(旅客367万6000人、車両152万7000台)と比べ、6割以下にまで減った。特に、運航収益の約8割を占める車両の落ち込みは痛手となっている。フェリー事業の経常収支の赤字は、15~19年度は2億円台、20、21年度は7億円台、22年度は3億円台、23年度は1億8000万円に上る。

 市船舶局はこれまでに職員の手当カットのほか、値上げや減便、船売却で隻数を減らすなど経営改善に取り組んできており、これらのサービス低下への不満は、旧町時代からの住民に根強い。04年の市町村合併の翌年には30年ぶりの赤字に陥り、10年には燃料費削減のために初めて減便した。以降、減便や値上げが繰り返された。

 桜島フェリーは離島航路ではなく、住民を優遇する運賃設定ができない。その上、要望の多い旧町時代の島民割り引きや助成も、市は「公平性」を理由に復活させておらず、不満はくすぶり続けている。

●船舶局は9年連続赤字

 鹿児島市船舶事業の2023年度決算は、純損失3億4078万円を計上し、9年連続の赤字となった。これまでの赤字分を補填(ほてん)できずに積み上がった累積欠損金も27億5000万円を超える。観光客を始めとする輸送量は回復しつつあるものの、新型コロナウイルス禍前の水準には戻っておらず、値上げ後も厳しい経営環境が続く。

 収支がほぼ均衡していた14年度に11億円以上あった年度末資金残高はコロナ禍など、毎年の赤字補填に使われ、20年度にほぼ底をついた。その後は、特別減収対策企業債など国からの借り入れで資金不足を補てんしている状態が続いている。

 市船舶局の試算では、旧運賃のまま営業を続けた場合、25年度末に資金残高はマイナス5億4300万円、資金不足比率は27.3%と悪化。同比率が20%を超えた場合に指定される「経営健全化団体」に転落するおそれがあった。

 健全化団体になれば、国の指導の下、厳しいコスト削減や資産売却が避けられない。人件費削減のほか、年間8000万円以上の赤字が出ている夜間運航(午前0時~4時台)、現在4隻あるフェリー数も維持できなくなる可能性もあるという。

 試算では、運賃改定により25年度の船舶事業の純損益は、運賃改定前の3億円近くの赤字から約1億円の黒字に転換する。その後も資金不足は生じない見込みだが、燃料費高騰や船の更新計画もあり先は読めない。

 現在の経営計画(22~31年度)も既に現状と乖離(かいり)しつつあり、収支計画が試算通りにいかなければ、夜間運航の見直しや新たな値上げの議論が始まる可能性がある。

●競合する高速道の料金と比べると…

 鹿児島市街地と大隅半島を結ぶ交通手段は桜島フェリーや垂水フェリーのほかにも、東九州道自動車道などを利用する高速道路ルートがある。市船舶局は、フェリー利用の低迷の一因に高速道路開通の影響を挙げており、鹿児島市役所と鹿屋市役所までの費用や所要時間の概算を比較し公表している。

 普通乗用車(4~5メートル未満)では、桜島フェリーを使った場合はフェリー普通運賃(2350円)とガソリン代などを含めた費用は計2920円。回数券利用では2220円となる。

 高速道路の鹿児島北インターチェンジ(IC)-笠之原IC間の利用では、普通料金(1890円)とガソリン代で3180円、自動料金収受システム(ETC)割引料金の場合は2610円となる。軽自動車と普通自動車の割引なしの普通運賃・料金時の単純比較では、桜島フェリーが割安となる一方で、大型バスではフェリーは高速道路を上回る結果となっている。走行距離は桜島フェリー利用が46.3キロ。所要時間は105分、高速道路ルートではそれぞれ104キロ、100分。

 また、桜島フェリーの新運賃導入の翌8月には、鹿児島市と垂水市を結ぶ競合航路の鴨池・垂水フェリーも値上げした。利用者減少や燃料油高騰が主な理由で、新たな運賃は旅客が大人550円(50円増)、車両(4メートル以上5メートル未満)が2800円(450円増)で全体の1割程度の値上げとなった。

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