米ニューヨークのヘアサロンで働く浜田誠一郎さん(本人提供)
■浜田誠一郎さん(56)
多くの著名人を顧客に抱えるという米ニューヨークのヘアサロン「ウォーレン・トリコミ」。200人以上いるスタイリストの中で、売り上げナンバーワンの座を20年以上譲らずにいる。「常に要求を上回る提案をする」。人気が人気を呼び、客足が途絶えない。
実家は鹿児島市の理容店。鹿児島工業高校に通いながら通信教育で美容師の資格を取得し、福岡市の店で修業した。もとより好奇心旺盛な性格。「若いうちにもっといろいろなことを吸収したい」と考え、店主に紹介されたニューヨークの日系サロンの門を24歳でたたいた。
「紹介といっても電話番号を教えてもらっただけ。ゼロからのスタートだった」。英会話は身ぶり手ぶり。電話を録音して何度も聞き返すなど、日々の実践で少しずつ身に付けた。
1年後にフリーランスへ転身した。ニューヨークは人種のるつぼ。さまざまな髪質の客がおり、求められるスタイルも多種多様だった。現場にはいつも、ウィッグやヘアメーク道具を入れたスーツケースを2個持参し、どんな要求にも応えられるよう努めた。一人一人との出会いを大切にし、人づてに仕事をもらった。
その後ウォーレン・トリコミにアシスタントとして入った。日本の同世代が店を構え始める20代後半、アシスタントにとどまっていることに焦りもあったが、「積み重ねたものを無駄にしたくない」と自分の道を信じた。「日本人らしさなのか、細かい気配りができると評価してもらえた」。30歳でスタイリストに昇格するころには、体当たりで培った技術とコミュニケーション力はすでに信頼を獲得しており、予約が殺到した。
渡米して30年以上。逆境にめげなかった秘訣(ひけつ)は「目標を高く持ちすぎないこと」だ。現実的な目標を達成するたび「もう少しいけるな」と考え、向上を繰り返してきた。現在も美容ブランドを立ち上げて髪に良いくしを開発するなど、成長に満足していない。
今年8月下旬に帰省。「鹿児島は素晴らしい街。その良さを知るためにも、内にこもらず外へ挑んでほしい」と郷土の若者に期待をかけた。「さまざまな文化を見て経験してこそ、多様な考え方を認め合える。泣こよかひっ飛べ!」
はまだ・せいいちろう 英語の話者は「誠一郎」の発音が難しいことから、「セイ・ハマダ」の名で活動する。趣味はゴルフと魚釣り。