〈資料写真〉2023年6月、南さつま市で開催された市消防操法大会(写真と本文は関係ありません)
鹿児島県薩摩川内市、さつま町の消防団で構成する県消防協会薩摩支部は2024年度、消防技術などを競う2年に1度の消防操法大会を初めて開催しなかった。背景にあるのは、練習時間など団員の負担の大きさ。長年続いてきた大会だけに、今後どうあるべきか現役団員の意見は分かれている。
薩摩川内市の川内川河川敷に8月、市消防団川内南方面隊の約150人が集まった。小型ポンプ車とホースをつなぎ、川の水を吸い上げて標的へ水を放った。操法大会に代わり、24年度新たに始めた訓練だ。
同市では例年7月に市大会を開いて支部大会への出場分団を決めてきたが、今年2月の団の幹部会議で本年度は開催しないことを決めた。大会のための訓練が平日夜や土日にあり、現場から「大変」という声が上がっているのを踏まえた。
さつま町消防団は、おおむね6~8年に1度の輪番で支部大会への出場分団を決めていた。しかし、「訓練の負担が大きい」という現場の意見を考慮し、昨秋の団の幹部会議で希望制への変更を決定。参加を募ったが希望はなかった。
県内には11支部ある。県消防操法大会は8月、薩摩支部を除く10支部が出場して開催予定だったが、台風の影響で中止となった。
■現場からは賛否
両市町の現場の反応はさまざまだ。さつま町の団員の一人は「操法大会は決められた動きしかなく、実践に役立つかは疑問」と話す。大会を理由に入団を断られるケースがあり、団員減少の一因になっているという指摘も聞かれた。
一方で「なければ士気が下がる」「消防団活動をPRする上で重要」と大会を支持する意見もある。薩摩川内市消防局の上園秀警防課長は「大会の訓練が、万が一の事態に動ける態勢づくりにつながっている」と意義を語った。
続く団員減少に対しては、対策も打たれている。同市は24年度から、団員の年額報酬を8000円増の5万円とした。国の平均3万6000円を上回り、県内でもトップレベルだ。
■新たな訓練開始
技術や知識を落とさないため、両市町の消防団とも新たな訓練を始めた。
さつま町では23年度、町消防本部での実践的な操法訓練を開始。全分団が年1回取り組むため、訓練が代表に特化しがちな輪番制と比較し、全体的なレベルアップにつながると好評だという。薩摩川内市は24年度から年2回、全団員を対象に基本動作の確認や火災現場を想定した訓練を実施。消火活動の基礎を学ぶマニュアルも作成した。
薩摩川内市消防団の小牧純一団長(68)は良い訓練ができているとした上で、「消防操法は現場の基本のため、大会や訓練を通じて全団員に習得してほしい。次回大会の参加については一から話し合っていきたい」。さつま町消防団の井手原清美団長(64)は出場を希望する団員の存在にも触れ、「消火技術の向上という大前提は忘れることなく、時代に合わせて変えるべき点は変えながら操法大会に向き合っていきたい」と話した。
◇消防団とは
消防組織法に基づき市町村が設置する組織。団員は常駐の消防職員とは異なり、火災や大規模災害時に自宅や職場から現場に駆け付け、消火や救助活動に当たる非常勤特別職の地方公務員。18歳以上でその地域に居住または勤務していれば基本的に入団できる。鹿児島県内には43消防団630分団があり、団員数は1万4616人(2023年10月1日現在)。
◇専門性生かせる訓練を
関西大学・永田尚三教授(消防行政)の話 消防操法大会を巡っては、練習の負担の大きさや、大会の競技化を指摘する声が以前からあった。コロナ禍による中止を機に開催をやめたり、規模を縮小したりする例が全国的に見られる。団員確保に苦労する中、負担を軽減して入団につなげたいという考えだ。大会に出るような若い人の確保が難しいという現状もある。
阪神淡路大震災以降、消防団には、大規模災害時に行政だけで対応できない部分を補う「共助の柱」の役割が求められるようになった。火災に限らず、倒壊家屋からの救出などさまざまな災害に対応できる態勢の強化が期待されている。
団員の中には、建設業で働き重機の免許があるなど、消防本部にはないような専門性を持つ人もいる。大会を目的としたものに替わって、そんな専門性を生かせるような訓練に取り組んでいくことが非常に重要だ。