キスを求めてマッチョの海にこぎ出した頃を思い、ローイングマシンに挑むイケザキ
鹿屋高校に入学した。理由は男女共学だからだ。
なんで共学か。それは恋愛がしたいから。なんで恋愛がしたいのか。それは彼女が欲しいから。なんで彼女が欲しいのか。それは当時読んでいた恋愛漫画「BOYS BE…」のようなキスがしたいから。
そう、僕はキスをするために鹿屋高校に入学した。
入学してすぐ、親に頼み込んでメガネからコンタクトに変えた。もちろんキスのためだ。部活はどうしよう。どの部活が一番キスに近づけるだろうか。モテそうなのは、サッカー部かバスケ部か…。
いや冷静に考えろ。俺は運動神経がない。そんなやつは万年補欠だ。補欠はモテない。彼女もできない。つまりキスできない…。何かいい部活はないか。部活を決めきれない日々を過ごしていた。
ある日の帰り道。中学からの同級生、岩松が話しかけてきた。
「一緒にボート部に入らない?」
「ボート部? なんで?」
「ボート部は県にチームが5校ぐらいしかないから、九州大会とか、全国大会に行きやすいみたいなのよ」
「えっ? ってことは大会で県外にタダで行けるってこと?」
九州大会、全国大会に出る→学校で表彰される→モテる→彼女できる→キス。しかも全国とか行ったら、県外で他校の女子との出会いも増えるはずだ。出会いが増えれば、彼女ができる可能性も増える。つまりキスの可能性も増える! しかもボートって、デートの定番ではないか。これだ。
僕はボート部に入部することに決めた。
次の日の放課後。僕は岩松と一緒に先生に入部届を提出した。ボート部の活動場所は体育館横のトレーニングルームという。そこは筋トレマシンなどが置いてあり、いろんな部活が自由に使っていい所らしい。
ん? 海とかプールとかじゃないんだ。少し疑問がよぎったが、教えられた場所に向かった。ここか。木造のトレーニングルームはだいぶ年数がたっているように思えた。扉の向こうからは、重い物を落としたようなガシャーンという音や「うおおおおお!」といううなり声が聞こえる。怖い。なんか想像してたのと違う。でも駄目だ。ここで引き下がったらキスができない。行こう。僕と岩松は立て付けの悪い、横にスライドするタイプの扉をガタガタいわせながら開けた。
「今日から入部する池崎です」
「17、18、19、20…ううううう!」
ガシャーーーン!
「はあ…はあ…聞いてるよ。よろしくね」
『よろしくうううう』
僕らを歓迎する野太い声があちこちから上がった。
扉の向こうはマッチョの海だった。
マッチョたちがいうには、ボート部の練習は平日はひたすら筋トレ、土日に大隅湖に行って練習するとのこと。
…キス無理かも。
つづく