誰か乗る、いつか乗る…「そんな発想では地方のバスは消えます」 先細る公共交通に地元自治体が危機感

2024/10/14 07:00
南薩鉄道時代の蒸気機関車が置かれ加世田駅の面影を残す加世田バスターミナル=南さつま市加世田本町
南薩鉄道時代の蒸気機関車が置かれ加世田駅の面影を残す加世田バスターミナル=南さつま市加世田本町
 地域住民の移動を支える公共交通機関が細ってきている。人口減や過疎化に加えて、新型コロナウイルス下での行動制限に伴う利用減も追い打ちをかけた。鹿児島県内も例外ではない。自由に動ける態勢づくりへどうすればいいか。地域公共交通の在り方を考える。(連載かごしま地域交通 第1部「ゆらぐ足元」③より)

 南さつま市の加世田麓武家屋敷群、旧鯵坂邸内の一角に大きな紙が貼ってある。「南さつまを巡る魅力発見のバスの旅」の文字。地元で文化活動やまちづくりに取り組むNPO法人「プロジェクト南からの潮流」が2022年夏に開発を試みた、路線バスとコミュニティーバス(コミュバス)「つわちゃんバス」で回る観光ルートの紹介だ。

 「目的があれば楽しんで乗るだろうし、利用者増に役立てばと始めた」。コースづくりに携わった当時の副理事長、福元拓郎さん(80)が振り返る。通常の観光ルートでは気付かない魅力を掘り起こし、武家屋敷群以外にも足を運んでもらう狙いもあった。

 実地で調べてNPOがまとめたのは、加世田バスターミナルを中心に同市金峰や笠沙・野間池、久志を往復するコース。立ち寄れそうな史跡や景勝地も組み込んだ。

 会員らで1、2回試験的にたどったものの外部へ積極的周知には至らなかった。「バスのダイヤ変更や廃便が続き、想定通り乗り継ぐのが難しくなった」と福元さん。地域住民の開発ルートによるローカルバス旅は幻となった。

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 南さつま市を走る路線バスの多くは、加世田バスターミナルを経由か発着する。「つわちゃんバス」も市内各地と行き来する。先のNPO法人のルートづくりには、交通の結節点である加世田の特性が生かされた。

 ターミナルは1984年廃止の私鉄南薩鉄道(南鉄)加世田駅の跡にある。伊集院-加世田-枕崎を結んだ南鉄を受け継ぐ鹿児島交通のバス路線が今も残る。鹿児島市や南九州市川辺・知覧方面ともつながり、南薩の交通の重要拠点となっている。

 とはいえ地域の移動手段は自家用車が主流。ターミナル横の大型スーパーはにぎわうものの、車で乗り付ける買い物客が圧倒的だ。

 「車なら30分程度で行ける距離を、バスは1時間以上かかることがある。行きたい所に必ずしも行けない」。プロに運転を任せるバスの利点を理解しつつ、不自由さも感じたNPOの福元さん。ルート開発を通し、バス利用の少なさに納得した。

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 「誰か乗るだろう」「いつか乗るだろう」では、お近くのバス停・バス路線は無くなってしまいます-。南さつま市はホームページに掲載する公共交通時刻表で、交通体系存続への危機感を表す。路線バスが約1.3億円(年間)、コミュバスと乗り合いタクシーが計約4500万円の公的支援を受けて維持されている旨の説明もある。

 昨年12月版に載ったのはコミュバス6路線、乗り合いタクシー4路線。今年7月版には再編したコミュバス4路線を掲載。タクシーは倍増の8路線で、利用が低調なコミュバスからの転換が進んだ。

 将来へ向けた施策にも着手する。24年度は国の補助を受けて県内初の自動運転バスの社会調査を予定する。オペレーターが乗ったバスを市街地で走らせ、住民ニーズを探る。「既存の手段も新しい取り組みもともに重要」と担当者。新手法を公共交通への関心を高める機会と捉えている。

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