出でよ、タイムマシン-。高2のジェラート屋へ、時空を超えて念を送るイケザキ
Q・もし過去に戻れるなら、戻って何したい?
よくある質問。悩む人も多いかもしれないが、僕はハッキリ決まっている。
恋愛漫画みたいなキスをするために鹿屋高校に入学して、ボート部に入部し、筋肉まみれの日々を過ごす僕は、中学校の時と何も変わらない非モテ3軍男子で、変わったのは体つきだけだった。
真面目だったため部活は一切サボらず、2学期になる頃にはプチマッチョになりつつあった。体力テストの懸垂では1年生で一番回数ができた。部活がどんどん楽しくなり、頭の中のキスはすっかり筋肉に押しつぶされていた。
そんなある日。ボート部の女子マネジャー、2年生の新山さん(仮名)にこんなことを言われた。
「池崎くんの中学校の体操着もらえないかな?」
高校はいろんな中学校から生徒が集まってくる。部活の時はそれぞれの出身中学の体操着を着たりしていた。僕の母校・鹿屋中の体操着はシンプルな白のトレーナーで、胸元にワンポイントで名前が入っているもので、欲しがる女子が結構多かった。男子のものを女子がオーバーサイズで着るとかわいいからだ。
新山先輩は色白で目元に泣きぼくろがあって、口数は少なめ。きれいでちょっとミステリアスな雰囲気も漂わせていて、間違いなくモテるであろう1軍女子。むさ苦しいマッチョだらけのボート部でオアシス的存在だった。
「え? 良いですけど。名前書いてありますよ」
「全然大丈夫だよ。ありがとう」
それから新山先輩は、池崎と胸に書いてあるトレーナーを部活に着てくるようになった。学年が違うので部活以外で話す機会は多くなかったが、掃除の時間に2年生の校舎に近い中庭の掃除をしていると、新山先輩は話に来てくれた。
先輩は僕のことを好きだったんじゃないかと思う。一つ上のきれいな女子マネが自分の名前の入っているトレーナーを着てくれているなんて、それこそ恋愛漫画だ。ただ部活に夢中の僕はそれに気づかない。というより、ビビって気づかないふりをしていたんだと思う。あれだけキスしたいと熱望していたはずなのに、チャンスが目の前にやってくるとどうしていいのか分からない。
そして新山先輩が3年になり、部活を引退する日。
「池崎くん、部活がんばってね。ねえ、ジェラート屋さんができたんだって。今度一緒に行かない?」
「そうなんですか。えっと…。ちょっと考えときますね」
私服見られるの恥ずいとか、部活あるしとか、あれこれ考えて結局行かなかった。
冒頭の質問、僕はこう答える。
A・高校2年生に戻って、鹿屋に初めてできたジェラート屋さんに行きたい。
そして僕はボート部のキャプテンになった。つづく。