インバウンドは回復したが、商業施設は経営再建に閉店も…2024年の鹿児島経済を振り返る

2024/12/27 11:33
経営再建に乗り出した山形屋=5月、鹿児島市金生町
経営再建に乗り出した山形屋=5月、鹿児島市金生町
 2024年の鹿児島県内の経済は、新型コロナウイルス禍を経て、回復の動きが見られた。好調なインバウンド(訪日客)需要により、国際線の定期路線数やクルーズ船の寄港数はコロナ前の水準に戻る一方で、バスやタクシーでは運転手不足が続き、鉄道ではローカル線の在り方が問われた。賃上げによる所得環境の改善で個人消費が伸びる中、商業施設は周年や経営再建、閉店といった節目を迎えた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産への登録を機に、焼酎を海外へ売り出す機運が高まった。

■山形屋が私的整理

 創業270年を超える鹿児島市の山形屋が私的整理の一種「事業再生ADR」を申請し、5月28日に債権者の全17金融機関の合意を得て成立した。経営再建に向けた5年間の事業再生計画が始まった。

 取引金融機関への負債総額は約360億円。債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ、DES)で約40億円、返済が猶予される債務の劣後化(デット・デット・スワップ、DDS)で約70億円の金融支援を受ける。計画では、収益性向上や不動産売却、組織・人員体制のスリム化を計画の柱として、事業の見直しと財務健全化を図る。

 6月には、計画を主導する山形屋ホールディングス(HD、同市)を設立。ガバナンス(組織統治)強化を目的に役員5人中3人は、メインバンクの鹿児島銀行や同行関連会社などから迎えた。創業家の岩元純吉氏は代表取締役社長、岩元修士氏は代表権のない取締役として経営陣に残った。

 8月1日には、グループ24社を再編し15社まで整理。9月には来店促進などを目的にスタンプや友の会(七草会)と連携した決済機能を持つアプリを始めた。2号館5階で自社運営していた文具雑貨店は同月末で閉店し、10月1日には同フロアに文具専門店と家電量販店をオープンした。

 岩元修士社長は12月10日、ADR成立後、初めて直接取材に応じ、「利益意識が高まった。前に進んでいる実感がある」と語った。同26日には、姶良市のサテライトショップ閉店、日南山形屋のギフトショップ化を明らかにした。

■地域交通

 ローカル線の将来を巡り、鉄路の議論が大きく加速した。JR九州は4月、2020年の豪雨被害で不通が続く肥薩線の八代-吉松間のうち、「川線」と呼ばれる八代-人吉間の鉄路復旧を国、熊本県と基本合意した。

 同社は当初、復旧に慎重な姿勢だったが、観光振興や日常利用を盛り込んだ熊本県の復興案を評価した。一方で、人吉-吉松間の「山線」は川線とは切り離し別途協議する考えを示す。

 8月には指宿枕崎線の指宿-枕崎間の在り方について、沿線自治体らと協議会を発足。鉄路存廃の前提や期限を設けず、当面は鉄路を生かした地域づくりを話し合う方針を決めた。11月末には、日南線の油津-志布志間も沿線自治体と議論する意向を発表した。

 新型コロナウイルス禍による離職などを受け、バスやタクシー運転手不足が顕著となった。4月にはタクシー事業者の管理下で一般人が有料で客を運ぶ「日本版ライドシェア」が導入され、11月からは伊佐市の事業者が運用を始めた。

 海と空の便はコロナ禍からの回復を印象付けた。クルーズ船の県内寄港回数は過去最多に迫る151回。鹿児島空港では7月の上海線を最後に国際定期便4路線が全て復活した。ただ便数はコロナ前の半分ほどにとどまっている。

■「酒造り」が無形文化遺産

 本格焼酎など日本の「伝統的酒造り」が12月5日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。鹿児島県内でも焼酎の海外認知度向上や地域活性化へ期待の声が多く上がり、「焼酎を世界へ売り込もう」という機運が高まった。

 登録されたのは、麹(こうじ)菌を使って原料を発酵させる日本古来の技術。杜氏(とうじ)や蔵人(くらびと)が各地の気候風土に合わせて発展させてきた。鹿児島では芋や黒糖などを主原料とする焼酎が今の暮らしに根付いている。政府は登録を機に国産酒類の輸出拡大や観光振興、地域活性化に結びつけたい考えを示す。

 県内の本格焼酎出荷量は、国内人口減による市場縮小や嗜好(しこう)品の多様化などから減少傾向にある。官民一体となり海外市場開拓を進めるものの、既に「SAKE」として高い知名度を誇る日本酒と比べると大きく後れをとっている。

 鹿児島県には100を超す蔵元があり、その多様性は他に類を見ない。県酒造組合の浜田雄一郎会長は「職人魂が生み出す高付加価値を国内外にアピールし、焼酎造り体験や現地での食と組み合わせた展開も考えたい」と、今後の好循環に期待を寄せる。

■サンロイヤル新築移転発表

 創業51年となる鹿児島サンロイヤルホテル(鹿児島市)は8月2日、建物の老朽化のため移転新築する方針を発表した。移転先として県有地で同市本港区エリアの住吉町15番街区を希望、要望書を県に提出した。

 同社は、市や県が出資して立ち上げた第三セクター。ホテルは1972年の太陽国体を前に埋め立てられた与次郎ケ浜の中核施設として73年に全面開業した。建物は2017年、耐震化が必要と診断されたが、50億円前後の費用が見込まれるほか、負債総額も50億円近くあり断念。県有地などで長期定期借地できる移転先を探していた。

■最低賃金56円引き上げ

 人手不足や物価高騰を受けた全国的な賃上げの波は鹿児島県にも広がり、春闘では満額回答が相次ぐなど高水準の結果となった。

 鹿児島地方最低賃金(最賃)審議会は8月9日、物価高や地域間格差是正を考慮して時給953円を答申。10月5日から適用された。引き上げ額の56円は、2002年度に時給で示す方式になって以降、最大の上げ幅となった。

 23年度の897円は都道府県別で下からは3番目に低く、最も高い東京都と216円の開きがあったが、東京は本年度50円増の1163円だったため、差は210円と6円縮まった。

■商業施設に動き

 1975年にダイエー鹿児島ショッパーズ・プラザとして開業し、「カモダイ」の愛称で親しまれたイオン鹿児島鴨池店(鹿児島市)が8月末、施設の老朽化を理由に閉店した。最終日は、思い出の場所を目に焼き付けようと約2万人が訪れにぎわった。建物は今後取り壊され、イオングループが複合型施設などの再開発を検討する。

 鹿屋市白崎町のプラッセだいわ鹿屋店跡地には11月21日、大隅半島初出店となる「イオンかのやショッピングセンター」が開業した。鉄筋コンクリート4階建て、延べ床面積2万5289平方メートル。イオン直営店のほか、大隅地区初出店となる無印良品など20の専門店が入り、初日は開店前から約1500人が並んだ。

 JR鹿児島中央駅ビルのアミュプラザ鹿児島は9月17日、開業20周年を迎えた。2004年3月の九州新幹線一部開業から半年後オープン。陸の玄関口に新たな商圏を築き鹿児島のランドマーク的存在に成長した。

鹿児島のニュース(最新15件) >

日間ランキング >