馬毛島工事で国の米軍再編交付金を42事業に。しかし生活向上感には疑問の声…そして迫る西之表市長選。市民の関心は「未来をどう描くか」

2025/01/17 07:00
西之表市街地から十数キロ先で自衛隊基地整備が進む馬毛島=16日、同市役所から撮影
西之表市街地から十数キロ先で自衛隊基地整備が進む馬毛島=16日、同市役所から撮影
 鹿児島県西之表市馬毛島で、米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転を伴う自衛隊基地整備が始まって2年がたった。地元では賛否の論争から、古くから続く暮らしや産業をどう守るかに焦点が移りつつある。26日告示の市長選、市議選を前に、基地工事がもたらした功罪を追った。(連載・馬毛島の現在地 基地着工2年⑤から)



 「この4年間の変化をよかったと感じられなかったからですかね。みんな『自分が』って思うのもわかるけど、多すぎるから公約が分かるかな」。26日告示の西之表市長選について、同市に住む男子高校生(18)は苦笑いでこう語った。

 現時点で過去最多の7人が名乗りを上げ混戦の様相を呈す。馬毛島の自衛隊基地整備は工期が3年延長され完成は2030年3月末までとされる。23年1月の着工からまだ2年という中で暮らしの変化に戸惑う市民は少なくない。

 「業務用の車が目立ち、渋滞やあおり運転が気になるようになった」とは自営業の男性(60)。「基地整備は国の事業だから止めることはできない。事故が増えないよう対策を取ってほしい」と訴える。自営業を手伝う女性(72)は地域医療への影響を危惧。「工事関係者で人口が増え、病院が完全予約制になった。緊急時を考えると、種子島に信頼できる病院が増えてくれれば」と願う。

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 米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転を伴う基地整備が馬毛島で始まるにあたり、市民の関心の一つが国の米軍再編交付金だった。23、24年度と最大交付額は各20億円。学校給食無償化をはじめ、現在42事業に充てられている。

 一方で、生活向上を実感しているかという点では疑問の声が上がる。80年以上続く老舗和菓子屋の若水太司代表(53)は「客層は地元がほとんど。(基地工事の)経済効果はプラスもマイナスも感じない」と指摘。「交付金を住民税の負担軽減に使うなど、みんなが効果を実感できるようになればいいのだが」と望む。

 高崎酒造の高崎創士さん(25)は、約120年続く酒蔵を継承したいとUターンした。高齢化などで農業離れに歯止めがかからず、将来的に原材料のサツマイモが不足することを懸念する。「1次産業があっての食品製造業。農家が安心して働ける政策を展開してほしい」と話す。

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 工期延長により、次期市長は任期4年の間、市民生活への影響と向き合い続けなければならない。市民からは、とりわけ「安心安全」を求める声が聞かれる。

 子育て中の女性(44)は3人の子どもが出掛ける際、衛星利用測位システム(GPS)機器をバッグに入れている。「子どもたちと安全に暮らしたいだけ。誰がそれを実現してくれるかを見極めたい」

 農業岩下勝男さん(87)も「孫やひ孫世代が、明るく何の心配もない島にしてほしい」とし、「国にもの申すことができる人が市長になって」と強調する。

 前回21年の市長選は着工前で、実質的に基地の賛否を問う一騎打ちだった。既に工事が進む今回は、基地の是非から、基地に対する考え方を基に市の未来像をどう描くかに市民の関心は移っている。
=おわり=

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