海外で人気の「WAGYU」 国内では不振のA5等級霜降り肉の活路に おいしさ知った外国人が需要を拡大
2022/06/15 11:00
香港に向けて出荷される和牛肉=5月24日、曽於市のナンチク
5月下旬、食肉加工・販売を手掛けるナンチク(鹿児島県曽於市)の工場内では、電動フォークリフトが走り回り、保管庫から冷凍された和牛肉を運び出していた。15~20キロ入りが119箱。従業員がロット番号や数量をリストと照合し、間違いがないか確認していく。
箱の上面には「EXPORT FOR HONG KONG(香港向け輸出)」と書かれている。「これから博多港の箱崎埠頭(ふとう)まで運んで、そこからは船便。数日もすれば現地の店頭に並ぶだろう」。トラックに積み込まれる「WAGYU」を見守りながら、輸出を担当する宮里達也さん(50)が説明してくれた。
ナンチクは1990年に国内で初めて対米輸出牛肉処理の認定を受け、和牛肉輸出の先駆けを担った。香港は日本産牛肉の受け入れが解禁された2007年以降、メインの輸出先として重宝する“お得意さま”だ。
「最近は米国、台湾向けも好調。欧州連合(EU)も期待できる」と話す宮里さんの表情は明るい。
■インバウンド効果
海を渡る国産牛肉の数量はここ数年、うなぎ上りに増えている。
貿易統計によれば、21年度の輸出量はアジアを中心に7891トンに上り、10年間で13.6倍に膨らんだ。金額の伸びは円安効果も手伝って16倍(545億9800万円)にも達する。大半は格付けが最上位に位置するA5等級の和牛によるものだ。
後押ししたのは、13年から新型コロナウイルス禍の直前まで過去最高を更新し続けていたインバウンド(訪日外国人客)の存在だ。年間3000万人の外国人が日本を訪れて和牛のおいしさを知り、母国での需要拡大に一役買った。
インバウンドはコロナ禍に消えたが、輸出は世界的な巣ごもり需要を背景に、むしろ勢いを増している。オンライン商談がスタンダードになり、対面型では限界のあった新たな取引先の掘り起こしも容易に。20年1月に日米貿易協定が発効し、低関税枠が広がったことも追い風となった。
■需給ギャップ
ナンチクは今年4月、営業部から輸出関連事業を切り離し、輸出促進部を立ち上げた。宮里さんは初代部長だ。「今は売り上げの2割ほどを輸出向けが占めているが、いずれは半分を超えるまでに成長させていきたい」という。
ナンチクをはじめとする輸出事業者が海外に熱視線を送るのには理由がある。国内市場におけるA5等級の販売不振だ。
脂肪交雑(サシ)を重視した霜降り肉は、高級化が進み過ぎたこともあり、もはや採算が取れる価格で買ってもらえなくなった。一方で肥育技術は年々向上し、今や年間に出荷される和牛の半数がA5等級として市場に出回る。
こうした需給ギャップをどう埋めるか-。販路開拓に苦心してきた業界は、インバウンド効果で和牛への関心が急速に高まる海外市場に答えを見いだした。
「5等級は農家が心血を注いで牛を育ててきた証し。産地を守り支えるためにも、海外市場をもっと広げていかないといけない」と宮里さん。和牛の未来は海の向こうに託されたといっても過言ではない。
(連載【翔べ和牛 第5部 海を渡る】 2回目に続く)
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