療養初日。ホテル入室の直後に撮影。スーツケース2個に必要なものを詰め込んできた
風にはらはらと花が散り始めていた庭の桜は、戻った時には、ほぼ葉桜に-。3月末から4月にかけ、鹿児島県内の新型コロナウイルス感染者は、2日連続で最多を更新する。その渦中に、記者(55)は宿泊療養で隔離された。実体験を報告する。
◆陽性確認【3月29日(火)】
26日、体温が37度6分まで上がり、感じたことのない悪寒に襲われる。27日以降は6度台まで下がっていたが「濃厚接触」が疑われ、PCR検査することに。
29日朝、近所の病院の発熱外来へ向かう。前日に電話で問い合わせ、予約無しで午前8時半から受け付けているのを確かめておいた。発熱外来専用の駐車場に案内され、それぞれの車内で待機させられる。各車まで防護服姿のスタッフがやって来て、鼻から検体を採取する。車から降りることなく、その場で待つこと30分程度。スタッフが「検査報告書」を手に、陽性だったことを知らせに来た。
いよいよ、自分もか。ワクチンは2回接種済みだったのだが。身近な感染者には「誰もがかかるよ」と慰めていたものの、自分がかかってみるとやはり、うしろめたい気持ちに襲われる。「保健所の連絡を待ってください」と言われ、病院を後にする。
自宅に戻ったが、家族への感染だけは絶対に避けなければならない。それが何よりの恐怖だった。マスクはむろん、ビニール手袋をはめ、除菌シートを携えて家の中を移動する。愛犬が愛らしい目で「遊べ遊べ」と迫るが、応えられないのが苦しい。
そうしているうち「明日かあさって、鹿児島市内のホテルへ入る」との連絡が入った。県ホームページの「宿泊療養施設に入所される方へ」を読んでいてください、と言われる。それによると、タオルや歯ブラシ、シャンプーといったアメニティー類は自分で準備しなければならないらしい。
◆ホテル療養始まる【30日(水)】
午前中、「きょうの午後1時ごろ、県の車が自宅まで迎えに行きます」と連絡が入る。症状は平熱だが、軽い倦怠(けんたい)感と、喉の奧に小骨が刺さったような異和感がある。
時間になった。もろもろの必需品を詰めたスーツケース二つを準備し、庭の桜の木の下で待つ。強気が取りえの私も、さすがにしゅんとした気持ちに包まれる。
白いワゴン車が入ってきた。運転手と助手席に男性が1人ずつ。どちらも完全防護服姿だ。自宅は家もまばらな田舎だが、街なかの住宅街ならきっと人目が気になるだろう。促されて乗り込み、4列ほどの座席の一番前に座る。運転席との間には茶色いテープでビニールシートの仕切りが貼られていた。
ほかに3カ所を回って4人を順々に乗せ、1時間余りでホテルへ到着。車を1人ずつ降りるよう指示があり、通用口のようなところから入る。防護服姿の女性から、部屋番号が書かれたビニール袋を渡される。体温計やパルスオキシメーター、2リットルのペットボトル水のほか、健康観察記入票、入所のしおりなどが入っていた。
一緒に渡されたルームキーで、これまた1人ずつ専用のエレベーター(貨物用か)に乗って各個室へ。3時ごろになっていたろうか。しばらくすると、ホテルに待機する保健師から館内の内線電話が来る。食事の時間や、滞在中の注意事項、指先を挟んで血中酸素濃度を測るパルスオキシメーターの使い方などが説明される。症状が重くならなければ4月5日午前に退所となる、との告知。長い…。
この日、県と鹿児島市は新たに776人の新型コロナウイルス感染者を確認したと発表した。29日の759人を上回り、2日連続で過去最多を更新した。
◆ドアノブに弁当つり下げ【31日(木)】
部屋には備え付けのベッド、机、テレビ、電気ポット、ドライヤー。紙コップは5個ほど支給された。持ち込んだ陶のマグカップが重宝する。
午前7時すぎ、「みなさまおはようございます。検温の時間になりました。各自検温し、記録をお願いします」と館内放送が流れる。8時までにスマホで回答し、時間までに回答が確認できなかったり発熱があったりする人は電話確認が入ることになっている。
8時少し前、「ただいま朝食を配布中です。配布終了の放送があるまでは取らないで客室内でお待ちください」の放送。各部屋の外側のドアノブに、食事の入ったビニール袋がつるされていく気配がする。のぞき穴からこっそり見ると、走りながら配るスタッフも完全防護服だ。「おつかれさまです」と心の内でつぶやく。8時すぎ「ただいま各客室の前に朝食を配布しましたのでお知らせします。どうぞみなさまお取りください」の放送。各部屋のドアがバタンバタンと開く音がする。
正午前後の昼食、午後6時すぎの夕食と、こうして1日3回の「配膳」がある。
朝は小さなパン2個、マーガリンかジャム、ミニサラダ、カップのヨーグルト、野菜ミックスや青汁などの紙パックジュースが基本。昼と夜はおかず数品と白ご飯の弁当だ(1日だけ、夜にカレーが出たのはうれしかった)。正直言ってハンバーグやフライにてんぷら、唐揚げなどの油物、炭水化物たっぷりは50代にはつらいが、税金で療養させてもらっている身で文句は言えない。持参したもずくスープ(固形にお湯を注ぐ)に、乾燥ワカメを足すなどして変化をつける。インスタントの海鮮チゲスープもヒットだった。
さらに数日は、自宅の冷蔵庫から持ち出してきたピクルス(キューリやニンジンの酢漬け)や夏ミカンの皮のマーマレード、煮卵のほかトマト、イチゴなどを、支給のお弁当に添え、少しずつ大事に大事に食べた。同時期に療養していた知人は、ホテルから「果物など生もの類の持ち込み禁止」と最初に釘を刺されたという。私の場合はそれはなかった。施設によって対応は違うようだ。持ち込めて良かった。
そのほか、持ち込んで正解と感じたのは入浴剤、むくみ防止圧靴下。逆にあればよかったと感じたのは歯磨き専用のコップだった。
(後編に続く)