「自立活動」の授業で教員とカードゲームをする女子生徒(手前)=鹿児島市の開陽高校
発達障害の子どもたちへの指導や支援を含めた特別支援教育がスタートして今年で18年目となる。学校関係者や保護者らに広く知られるようになり、特別支援学級などで学ぶ児童生徒は急増。教員不足や学びの質といった課題も見えてきた。鹿児島県内の現状を報告する。(シリーズ・かわる学びや@鹿児島~特別支援教育の今=10回続きの⑥より)
「今日は何問正解できるかな」。10月下旬、鹿児島市の開陽高校の教室で、女子生徒が担当の山下奈央教諭(36)とマンツーマンで、苦手な漢字の問題を解いていた。特別な支援が必要な生徒を対象にした通級指導の「自立活動」だ。
女子生徒は小中学校で通級指導を受けていたが、一般入試で全日制の普通科に入学。2年生の時、漢字の読み書きや集中力が続かないなどの「困り感」に気付いた学校から、通級を提案された。週1回通い続け、「読める漢字が増えてきた」と喜ぶ。
開陽では現在、15人が通級指導を受ける。女子生徒のように経験がある生徒のほか、中学時代に特別支援学級(支援級)に在籍していた生徒、入学後に困り感に気付いて受講する場合もある。山下教諭は「苦手が少しでも減り、通常学級での学びにつながるように」と心がける。
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文部科学省の調査によると、2021年度に高校に在籍していた全生徒の2.2%が、特別な支援を必要としていた。22年度には特別支援学校・支援級を卒業した中学3年生の42.5%にあたる約1万6000人が高校や高専に進学。鹿児島県内では23年度に53%、448人が入学している。
通級指導は1993年度に小中学校で導入されたが、高校は大幅に遅れ、2018年度からスタート。県内の実施校は年々増えており、24年度は鶴翔など6校で46人が受講する。来春には種子島中央でも始まる予定だ。
実施校では、通級指導での自立活動を単位として認定している。他校の生徒が指導を受けるには、在籍する高校で単位取得を認める教育課程が組まれる必要があり、ハードルは高い。
特別支援教育支援員も、高校への配置は足りていない。国は24年度、小中学校に約6万4000人分の予算を計上したが、高校は900人。県内の公立高では、希望した26校に対して5校に1人ずつにとどまっており、支援の遅れは否めない。
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独自に受け皿をつくる私立高校もある。日置市の鹿児島城西は1999年度、軽度知的障害の生徒が対象の「共生コース」を全国の高校で初めて設置。現在88人が通う。
基本教科に加え、企業と連携した職業訓練など独自の科目を開講。進学先として、2年間でワープロなどの資格取得を目指す福祉共生専攻科も整備する。
「将来の選択肢が広がることが、子どもや保護者から好評」とコース責任者の朝木修一教諭(44)。近年は定員30人に対し、倍近く応募があるという。「進路先の確保や相談体制など、必要なサポートをさらに強化していければ」と語る。
◇特別支援教育支援員とは 特別な支援や配慮が必要な児童生徒を、学校現場でサポートする役割を担う。教員免許などの資格は問わない。学習指導はできないが、ノートの取り方の指導や用具の準備といった学習支援のほか、食事や排せつ、教室の移動時など日常生活の介助、周りの子どもたちに対する障害理解の促進などにあたる。鹿児島県内では今年5月1日時点で、市町村立の幼稚園、小中高校・義務教育学校計580校・園に964人、県立高校5校に5人が配置されている。設置自治体が雇用し、費用は国の地方財政措置でまかなわれる。