過熱する抹茶ブーム…「何でもかんでも売れている」。煎茶の二の舞いはごめんだ。原料供給県からの脱却へ…今こそ「本場」に学ぶ

2025/04/04 20:43
抹茶を自らたてるクルーズ船客。海外需要は高まっている=3月17日、鹿児島市のマリンポートかごしま(田中公人撮影)
抹茶を自らたてるクルーズ船客。海外需要は高まっている=3月17日、鹿児島市のマリンポートかごしま(田中公人撮影)
 鹿児島県は2024年産の荒茶生産量で初の日本一になった。戦後に生産を拡大した後発産地ながら、官民一体となって先進的な取り組みを進め、ニーズに柔軟に応えてきた。県内茶業界の歩みを振り返り、現状と課題を探る。(連載「かごしま茶産地日本一~これまで/これから」⑥より)

 「茶せんは縦にして混ぜて」。3月17日、鹿児島市のマリンポートかごしまで、JA鹿児島県経済連の職員が外国人観光客に抹茶のたて方を手ほどきしていた。寄港が増えているクルーズ船の海外客へ県産抹茶をPRする狙い。「おいしい」「香りがいい」。自らたてた抹茶を味わう観光客に笑みがこぼれた。

 海外では健康志向や日本食への関心が高まり抹茶がブームになっている。これを追い風に、県内はここ10年で抹茶原料のてん茶の生産量が急増した。2020年産は800トンで、本場・京都府の710トンを抜き全国1位になった。23年産は1585トンに増え、全国シェアは4割に迫る。

 抹茶がけん引し茶の輸出額も伸びている。県によると、14年度の約2億円から、23年度は約33億円となり過去最高だった。国も設備投資などを支援して増産を後押しする。てん茶工場は24年度で6件増の19工場が稼働し、25年度は5件新設が計画されている。

■途上

 新規参入が相次ぎ量産体制が整いつつある一方、品質は改善途上といえる。西製茶工場(霧島市)の西利実社長(49)は「質を上げていかなければ、いずれ一気に鹿児島から買い手が離れていく恐れもある」と指摘する。

 同社は県内で最も早い06年にてん茶工場を整備した。生産が不安定になりやすいとされる有機栽培で、品質の高いてん茶を安定して大量生産する。世界的企業の抹茶商品の原料にも採用され、世界に抹茶を広め、ブームの源流となったとも言われる。

 それだけにここ数年の市場の過熱を危惧する。「特に昨年はそれまでの相場観が崩れ一気に高騰した。品質に応じた値段ではなく、何でもかんでも売れている」

 最近は海外バイヤーがわざわざ茶園を訪ねてくるほど引き合いが強い。経済連茶事業部の浜田憲久係長(38)も「てん茶であれば高値が付く感じがある」と明かす。

 品質向上が急務となる中、経済連は24年度、職員を京都の産地に初めて派遣した。学んだてん茶の評価方法や生産現場の工夫を生産者らと共有する。県農業開発総合センターも鹿児島に適した栽培方法や加工技術を研究している。

■脱・原料供給県

 県内には抹茶工場が少なく、煎茶と同じくほとんどは県外で加工され、国内外へ出回っている。“原料供給県”からの脱却に向けた動きも出始めた。

 経済連は3月下旬、抹茶工場の新設計画を発表した。年間150トンの処理能力を有する県内最大級の規模で、28年度稼働を目指す。ティーバッグ製品を受託生産するカゴシマパッカーズ(鹿児島市)は抹茶の袋詰めや製造ができる工場を同市に整備し、今年7月の稼働を予定する。

 県茶業会議所の光村徹専務(61)は「県内で最終加工までできる体制が整えば、鹿児島の名を前面に売り出せて付加価値を高められる。売り先の確保に課題はあるが、海外なら鹿児島にも勝機があるはず。煎茶の二の舞いにしてはいけない」と前を向いた。

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