新しい挑戦は、誰にとっても不安と期待が入り混じるもの。特にそれが新しい環境であれば、なおさら心は揺れ動くものです。
2023年12月、オムロンのデータソリューション事業本部(以下、DSB)に、データや先端テクノロジーを活用したマネジメント・サービス(以下、M&S)を提供する「スマートM&S事業部」が誕生しました。
設立から1年あまり(取材時2025年2月)、設備や機器の維持管理を主としたオペレーション&メンテナンスからマネジメントサービスへ進化させるための保守サービスのDX化と顧客価値の創造を両輪に成長を続けるスマートM&S事業部。そこで活躍するメンバーたちは、それぞれの個性と経験を活かし、新規事業という正解のない領域で挑戦を続けています。彼らを支えるのは、多様な人財がそれぞれの得意分野を活かしともに成長していく組織風土です。
彼らは、どのような壁を乗り越え、どんな挑戦を続けているのでしょうか。この事業立ち上げから1年間の挑戦と成長の軌跡をたどります。
ー これまでのキャリアと、スマートM&S事業部での役割を教えてください。
松丸英樹(オムロン株式会社 データソリューション事業本部)
オムロンフィールドエンジニアリング株式会社からDSBへ。
松丸:
私はもともと、駅、コンビニ、銀行などで使われる社会インフラ機器の保守メンテナンスを行うオムロンフィールドエンジニアリング所属です。2019年からは、機器のデータをリモートで取得し、故障予測や状態把握を行うスマートメンテナンスプロジェクトのリーダーとして、鉄道事業者向けにソリューションを展開していました。
2023年の12月にDSBにスマートM&S事業部が発足したタイミングで異動。スマートM&S事業部は、保守サービスのDX化と顧客価値の創造という2つの柱があり、わたしは保守サービスのDX化を担当しています。保守DXチームではつい先日、コンタクトセンター向けに生成AI、機械学習を活用したFAQ検索システムをリリースしたばかりです。この1年は、このリリースに向けて全力で取り組んできました。
櫻木伸也(オムロン株式会社 データソリューション事業本部)
オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社、オムロンフィールドエンジニアリング株式会社を経てDSBへ。
櫻木:
私はこれまで、駅務機器のソフトウェア開発やオムロンソーシアルソリューションズで取り扱う機器のデータを活用した渋滞予測やスマートメンテナンスなどのプロジェクトに携わってきました。松丸さんとは以前、同じプロジェクトで一緒に活動していた時期もあります。
現在は、スマートM&S事業部の価値創出チームに所属し、流通小売業界で店舗のカメラデータと売上データなどを紐付け、棚の配置と売上の関係性を分析する実証実験を進めています。
日原侑和(オムロン株式会社 データソリューション事業本部)
独立系SIer、鉄道会社系列のシステム会社、オムロン ソフトウェア株式会社を経てDSBへ。
日原:
私は松丸さん、櫻木さんより3ヶ月遅れてDSBへ異動してきました。お二人とは異なり、私は他社からの転職組です。オムロン入社前の10年ほどは、鉄道系のシステム会社で営業の収入管理システムやお客様向けアプリの開発などに携わっていました。
新しい技術・知見を広げたいという思いが強くなり、オムロンに転職しました。オムロンのソフトウェア開発を担うオムロン ソフトウェアへ入社後、スマートM&S事業部に異動し、現在は松丸さんと同じ保守DXチームで、開発や技術領域を担当しています。
- スマートM&S事業部への異動が決まったとき、どのように感じられましたか。
松丸:
データ活用による事業展開はスマートメンテナンスプロジェクトで経験していたことの延長線上にあると考えていたので、異動自体は素直に受け入れられました。
ただ、保守DXは既存のメンテナンスのあり方や業務を変革する必要があるため、現場の理解と協力が不可欠です。以前は現場メンバー中心のボトムアップで進めることが多かったのですが、今はより広範囲に影響力を持つ責任者との合意形成が必要なため、ステークホルダーの層の変化は感じています。
日原:
DSBは優秀な人が多いという印象があったので、正直、自分がそこでやっていけるのか不安でしたね。
松丸さんと取り組んだ生成AI、機械学習を活用したFAQ検索システムの開発は、私にとってオムロンで初めての開発となりました。これまで数々の開発を経験してきましたが、従来のウォーターフォール開発とは異なり、慣れていない環境でのアジャイル開発です。プロジェクトの状況に合わせてより柔軟さを求められて進めることに苦戦していました。
そのような状況に上司が気づき、先輩の技術者をメンターとして引き合わせてくださりました。その方は、これまで様々な開発現場でお会いしてきたどんな技術者よりも優秀で、このような方がいるのか!と感銘を受けました。
定期的に、技術知見、プロジェクトの進め方について相談する機会をもらえたことで、無事にリリースに辿り着けたと感じています。テーマ終了の報告会で、「よくがんばりましたね」という声をいただけたときは素直に嬉しかったですね。
櫻木:
以前から現在と同じような事業に携わっていたので、異動そのものへの不安はありませんでした。とはいえ、データを活用してお客様へ価値を提供することの難しさは感じています。
以前は社内データ分析が中心でしたが、現在取り組んでいるのは顧客と連携して、データ分析とAI活用により、顧客への新しい価値創出です。
社内データ分析では、目的や仮説が見えていましたが、顧客データ分析では、まずどんな価値を提供できるかを考え、必要なデータを検討する必要があります。さらにはそれらをどのように伝えるか、提案資料の見せ方や表現方法にも気を配らなければなりません。
この伝えるという部分には今も難しさを感じることがあり、上司や他の方の作られた資料を見ながら学んでいるところです。
- この1年間を振り返って、皆さんは業務のどのようなところにやりがいや難しさを感じられましたか
櫻木:
この1年は、あるアパレル系の小売企業と協力し、店舗内でのプライバシーを配慮した顧客動向データと売上データなどを紐付け、棚の配置と売上の関係性を分析する実証実験を行っていました。
店舗で得られる各種データと売上との相関関係を分析するため、センサーでデータを収集する簡易なシステムを構築しました。このプロジェクトではAIアルゴリズムやIoTプラットフォーム事業者などのパートナー企業と協力して、システムを創り上げていく過程そのものに楽しさを感じましたね。
様々なお客様やパートナー企業と話すことで、知見が広がっていくことに面白みを感じているので、今後は社内の人ともどんどん話して自分の意見を出すように、さらに意識していきたいと思います。
また、今回の取り組みは流通小売業界へのソリューション導入事例として、今後展示会でも発表をしていく予定です。空港、飲食店、さまざまな業種で接客がロボットへ置き換わっていますが、ロボットだけでは対応できない課題をデータと連携して解決していくことを進めていきたいです。
日原:
今年はオムロンでの初開発を終えた1年ということもあり、慣れない環境と役割のなかで無事リリースができたことに今はほっとしています。一方で自身の反省として、私の役割だからこそ指摘できる第三者視点での発言をもっと積極的にすればよかったかなと感じています。今後は、グループ会社を含めたパートナーとともに成長に繋げるための意見を言えるようになりたいと思います。
松丸:
私は現場と開発をつなぐ役割を担っていたため、相手を知ることは常に意識していました。現場の方が本当に求めるツールを開発できるよう、何度も現場を訪問して具体的な業務や不安を理解できるよう、密なコミュニケーションを重ねました。
一方で、上層部のステークホルダーを巻き込むことについては、まだまだうまく進められていない部分があると自覚しています。昨年取得したPMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)の知見も活かしながら、今後は上層部の人たちとのコミュニケーションも気負わずに取り組んでいきたいと思います。
- スマートM&S事業部は、皆さんにとってどのようなチームですか。
櫻木:
一言で言うと「多様性」です。異なるバックグラウンドを持った人たちが得意な領域を活かしてそれぞれの仕事を進めています。少人数の組織だからこそ、それぞれの役割を発揮することが求められています。
日原:
意見交換がしやすい環境ですね。グループ会社からの出向者や私のような転職組など、多様なスキル、バックグラウンドを持つ人たちが集まった組織ですが、新しい価値を創出するという共通の目標を追求しています。そのため、同じ目標に向かう仲間として協力関係を築きやすく、コミュニケーションも活発だと思います。
松丸:
オムロンの企業理念を体現する組織だなと感じています。事業を通じてよりよい社会に貢献という理念と、現場の困りごとに真摯に対応するという意識が深く浸透しているからこそ、誰もが社会的課題を解決への強い使命感を抱き、日々の行動につながっているのだと思います。
スマートM&S事業についてご興味をお持ちいただいた方は、以下のサイトも合わせてご覧ください。
※本文中の組織名、役職などは2025年2月取材当時のものです。