【九州4紙合同企画 災害碑を知る】放ったままでは「ただの石」…地域財産として残せるか、今が瀬戸際(大阪大・杉本めぐみ准教授)

2024/04/14 04:30
大阪大・杉本めぐみ准教授
大阪大・杉本めぐみ准教授
 自然災害伝承碑を研究テーマの一つとしており、3月に1週間ほどかけて東日本大震災の被災地をフィールドワークで巡った。岩手県宮古市には1933年の大津波後に建てられた有名な石碑がある。刻まれた「此処(ここ)より下に家を建てるな」との教訓を住民が守り、大震災時に被災家屋がなかったことで注目を集めた。

 この石碑がいま大切にされているかというと、そうとは言いづらい。集落は高齢化と過疎化が進み、管理が十分にできていないようだった。石肌が朽ちてこけむし、文言が読めない碑は各地で増えている。

 せっかく存在が確認された碑も、放ったままでは「ただの石」となる。多くが野ざらしとなっている現状を踏まえれば、人々の記憶とともに風化するか、地域の財産として残せるかの瀬戸際にある。今回のアンケートでは高齢者でも伝承碑自体の認知度が低かった。

 市町村や教育委員会の役割は大きい。石碑に囲いや屋根を付けたり、文字にインクを入れたり、積極的に修復や保存を進めてほしい。散らばった伝承碑を集約して展示するための箱物であればいらない。被災した「その場所」に立つことにこそ意味があるからだ。

 ソフト面の充実も欠かせない。地域の災害リスクを知る手段として学校教育に伝承碑を盛り込み、教える側の育成にも取り組んでもらいたい。小学3年の道徳の時間で扱うなど、幼い頃からの取り組みが肝心だ。学校や役所、企業で行われる防災訓練に石碑周辺の清掃を取り入れれば、過去を振り返ることにつながる。

 日常生活で教えられることもある。フィールドワークで訪れた岩手県大槌町では、さら地になった役場跡にある地蔵の前で手を合わせて通る小学生たちに居合わせた。「なぜそうするの?」と1人に聞くと、「親や友だちがそこで手を合わせるから」と教えてくれた。

 旧役場では当時の町長と職員計28人が津波の犠牲になった。地蔵も一種の伝承碑といえ、震災を直接経験していない世代に役立っている例だろう。こうした「習慣化」は、活用の上で目指すべき姿の一つだ。

 毎年のように豪雨被害が起きる九州は温暖化の最前線と言える。南海トラフや火山活動にも警戒が必要で、災害はとても身近にある。国土地理院に登録された伝承碑はまだ一部にとどまっており、地域の人々による掘り起こしと後世につなぐ取り組みに期待したい。

 すぎもと・めぐみ 京都府生まれ。京都大大学院修了。東京大地震研究所特任研究員、九州大准教授などを経て2023年4月から現職。専門は防災教育、災害リスクマネジメント。
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